でもやっぱ、嫌いじゃないです

※一つ下の続き

あれ以来ガンマ様は私をひたすら避ける。声をかけようとすると逃げる。
完全に私達の間に気まずい空気が出来上がっているのは誰の目から見ても明らかだった。


「最近、悩んでるみたいですね?クマ出来てますよ名前」
「ベータ様、言わないでくださ……えっクマ?またか!後で冷やそう……」
「……私で良ければ話を聞くが」


確かに最近あんまり眠れない。原因はひたすら私を避けるガンマ様だ。言いたいことがあるのに彼は伝えさせてくれなくて、そのせいでモヤモヤモヤモヤ……ってアルファ様までいつの間に!というか今話聞いてくれるって言いましたか言いましたよね!?


「何でアルファが出てくるんですぅ?名前の話を聞くのはわた――」
「聞いてくれますかアルファ様!というか聞いてくださいよアルファ様!ベータ様も!」
「「………二人で?」」
「うわあ心底嫌そうな顔……」


でも本当に嫌ならばお互い無関心なんだろうし、仲が悪いわけじゃないよなあとは思う。とりあえず、この二人に相談してみようと思って口を開く事にする。普段なら笑って誤魔化していたのだろうが、……多分この時の私は疲れていたんだと思う


**


「名前、あなた疲れてるんですわ」
「……イエス、私も同感だ」
「ちょ、何ですか二人してそんな憐れむような目しないでくださいよ!本気なんですって!」


予想以上の反応に再び頭を抱える。笑い飛ばされるより心配される方が辛いです。そりゃあ自分でも『ガンマ様に一言謝りたい』というのは解せない……けど……
でもやっぱり彼を傷つけてしまったのは自分だし、これは大声ではいえないのだけれど……

―――元気の無いガンマ様を見るのが、ちょっと辛い。

やっぱりガンマ様には自信満々でナルシストでいてくれた方が嬉しいな、なんて――私は彼に毒されている気がする。だから元気を出して欲しいな、と思うだけだ。そう、それ以上の理由なんて、


「名前、もしかしてガンマの事好きになっちゃったんですか?」
「―――――ッ!?べ、ベベベベベータ様何言い出すんですかッ!?」
「そ、その反応はもしかして図星…!?」
「違います!す、好きとかじゃなくてその、ガンマ様には元気でいて欲しいというか!」


好き!?違う違う、体中が一瞬で沸騰したみたいに熱くなる。いや別に好きとか嫌いとかそんなんじゃなくて!って何やら余計な事を口走った気がする。ベータ様が絶句してる!
今の忘れてくださいと言いたくても何故か口が上手く動かない。アルファ様に目線だけで助けを求めてみる。


「……惚れる手前なのか?」
「違います!」


助けになんてならなかった!やめてくださいアルファ様そんな目で私を見ないで!?目線からひしひしと『趣味が悪い』って単語を感じ取れる気がする!
もうどう弁解すればいいのか分からない。そんな挙動不審な私の肩をがしりと掴んだのはベータ様の手。


「どこが良いんですのあのナルシストのどこが!」
「いやだから良いとか嫌とかじゃなくて、」
「ガンマなんて少し元気が無いぐらいが丁度良いんですッ!……あ゛」
「丁度良いって……あ」
「………………あ」


ベータ様の声に思わず振り向くと、当のガンマ様がこちらに歩いて来るのが見えた。多分向こうもこっちに気がついたんだと思う。少し顔をしかめてUターンするのが見えた。多分アルファ様とベータ様が居るからだろう。走ったりはしない。――チャンスだ!


「ベータ様、ごめんなさい!」
「え、あ、きゃっ!?」


いきなり振りほどいたからだろう。ベータ様がよろめくのが視界の隅に写ったので後で土下座して謝ろうと思う。後が怖いからな!とりあえず今はガンマ様だ。早くない足をひたすら動かして彼に迫る。後五メートル、二メートル、一メートル……うわっ!?
足音に違和感を感じたのだろう。ガンマ様がタイミング良く振り向いたのに対処出来ずに彼に衝突してしまう。

どさっ、という割と大きな痛そうな音が廊下に響いた。――体の下にはガンマ様。え!?つまり私今ガンマ様押し倒してると…!?ああもういい、これならいくらガンマ様でも逃げられないやと腹をくくる。


「………お、降りろ名前!」
「突っ込みどころしかない状況ですけど言います、この間は酷い事言っちゃってごめんなさい」
「いや待てその前にこの状況を……は?」
「ガンマ様が元気無いと寂しいんですよ、私」
「………………」
「変ですか?よく分かんないですけど、ガンマ様がナルシ発言しないと落ち着かないというか……」
「………………」
「だから、元気出してください。いつもみたいに」
「…………名前は」
「私、ガンマ様の事嫌いじゃないですよ」


直後、真っ赤になったガンマ様を見てしみじみと思う。可愛いよなあ、この人。そう、だって何だかんだ言っても私はこの人が結構好きなんだと思う。いや恋愛的かどうかは自分でも分からないのだけれど。

―――そっか、私ガンマ様嫌いじゃないなあ

気がつくと口元は緩んでいたらしい。そのまま静かに、彼のおでこに軽くキスを落とした



でもやっぱ、嫌いじゃないです

(……アルファ、これは夢ですの?)
(……恐らく、現実だ)
(名前からガンマにキスを!?な、な……っ!?)

(あ、アルファ様にベータ様っ!?)
(これは違うんです、その、挨拶みたいな!)

(今なら幸せで死ぬ事が出来そうだよ、名前)
(何で鼻血垂らしてるんですか!いやこれはその、違)

(――やはり、君が好きだ)
(ッ!?不意打ちは反則ですって!)

(……って、今初めて好きって言われたような?)



(2013/02/26)
攻め夢主(当社比)が書きたかった結果