赤い跡

※白竜視点
※生理ネタです




どろり、とした赤い液体が名前の太腿を伝うのが見えた。それに気がついたのは自分が彼女を長らく見つめていたからだろうか。気がついたのは俺だけのようで、彼女は牙山にひたすらシュートを打たされている。きっと誰もが普通の怪我だと思うだろう。あの程度ならば治療するよりもシードの育成の方が優先される。

しかしあれは単なる怪我じゃないと直感で悟ってしまった自分の脳。
なんとなくだが、周囲の誰にも気がつかれず名前を医務室まで運ばなければならない気がした。


「教官、苗字を少し借りてもいいでしょうか」
「何だ白竜?今苗字は――――」
「緊急なんです」
「……………いいだろう、ただし10分だけだ」
「ありがとうございます」


普段の態度の積み重ねのおかげだろう。もしくはアンリミテッドシャイニングのキャプテンだからだろうか。チームメイトの一人を連れ出す事は以外にも簡単だった。休憩を言い渡されたも同等な名前はどさりとグラウンドに座り込む。
駆け寄ることは出来ないからゆっくりと歩く。しかし歩幅は普段より大きく。名前の顔は疲労でもなんでもなく青ざめていて、――直感が外れているわけではないと悟った。


「白竜、どうしよう、私何かおかしいの」
「医務室に行くぞ」
「……っ、うん」


自らの体の変化に戸惑いが隠せないのだろう。おろおろとしている名前の腕を掴む。誰にも気がつかれないようにするにはどうしたらいいか?―――簡単だ。細い名前の腰に手を回し、ふわりと持ち上げる。血の伝う跡は自らの腕で隠して。


「は、白竜!?なにし」
「緊急事態だろ、さっさと行くぞ」


ひゅう、なんてはやし立てるチームメイトは恐らく気がついていない。きっと大丈夫。素早く持ち上げた彼女の体は思いのほか軽くて驚いてしまう。……そんな事を考えている暇はないか。自分を叱咤して医務室へと走った。


**


医務室の扉を開けると女医の先生が驚いたように俺達を見やった。彼女の太腿を伝う赤い痕跡に気がついたのだろう。名前を床に降ろし、先生に軽く頭を下げる。何も言うつもりはない、きっと名前は傷つくだろう。
戸惑う名前にそっと優しく声をかけた先生。二人の姿を確認して、俺はもう邪魔にしかならない事を悟る。音を立てないように静かに医務室の扉を開いて、再び閉じた。教官に苗字は練習が出来るような状態ではないと伝えよう。


**


「大丈夫か」
「………うん、大丈夫」
「名前、今日と明日は練習に出るな。部屋で休んでろ」
「え?」
「教官には簡単に説明しておいた。風邪気味だからとな。キツいんだろ、無理するな」
「…………っ、キャプテン、ありがとうございます」


再び保健室に迎えに来ると、優しく微笑んだ先生と涙で顔をぐしゃぐしゃにした名前がいた。ぽんぽん、と頭を撫でてやると再び泣きそうになりながら俺に礼を言う。
上手くはぐらかして教官に説明して名前の休みを確保したはいいものの、きっと訝しんでいることだろう。
先生に近寄り、教官に説明してもらえませんかと尋ねると快く頷いてくれた。教官はこの先生に弱い。きっと聞き入れてくれるだろう。
再び名前を振り返った。心細そうな顔。そんな顔をするな、手を差し出した


「部屋まで送る」
「………うん」


大体の事柄に予想をつけてしまえば、あの赤い血がなんだったのかなんてすぐに理解出来る。大人になってしまった思い人……自分が子供だと実感してしまえば彼女は自分にとって遠く感じてしまう。彼女にとっては自分はただのチームメイトだけれど、きっと今彼女は俺に不愉快ではない感情を抱いているだろう。
そんな事しか考えられない頭?そんな事を考えないと離れた距離の事を考えてしまうだけ。彼女が握り返してきた手を力を入れすぎないように包み込んだ。さあ、部屋に戻ろう



赤い跡

(彼女が遠くなっていく)

(2013/02/23)


紳士な白竜が書きたかったんです……紳士ってこれ紳士じゃないけど……
白竜の思考って冷静そうだなあとか思ったらちょっと暗くなった、かな…?
やはりアホな話が書きたい頭らしいです自分は