今惚れたんだからしょうがない


※ザナークさんがフェーダにいたころの話
※ザナークさん視点


「あ゛ァ?」
「ひっ!?……あ、その………えっと」
「――今、何つった?」
「で、ででで出過ぎた事言っちゃってごめんなさい本当ごめんなさい!」
「…………オイ、真面目に言ってンのか」
「真面目です!おっ、大真面目です!誠心誠意込めました、本気ですその、あの」
「………」


すう、と大きく息を吸うモーションを見て絶句。
目の端に涙まで浮かべて拳を握り締めて、この女は俺に言い切ったのである。


「―――その、ザナークさんが、好きですッ!」
「おま、こんなところで叫ぶんじゃねえ!」


**


「――ッたく、あんなところで叫ぶとかどんな神経だオマエ」
「だ、だってその……私声小さいしボソボソうざったいって言われましたし……ザナークさんに」
「広間は無えだろう広間は。恥じらいとかねえのかお前は」


溜め息を吐いて、自分のルートクラフトを置いてあるガレージの壁にもたれかかる。まさか広間で盛大に告白をかまされるとは思ってもみなかった。
半分呆れ、半分尊敬、0.1ぐらいはまあ、喜びがあることを認めなくもない。
ちらりとルートクラフト越しに壁にもたれるそいつを見れば、顔を手で覆っていた。耳が真っ赤だから泣いているとかではないのだろう。


「十分恥ずかしいです!というか今も恥ずかしくて死ねそうです」
「……頑張って生きろ」
「頑張ります!」
「……お、おう」


励ました瞬間に小さくガッツポーズを作ってキリリと表情を引き締めるソイツにちょっと引く。一歩分距離を開けて再び質問。


「で、何でオレなんだ?お前――名前、だっけな?ガロの女だと思ってたが」
「ッ、違います!あれは、向こうが勝手に―――!」
「………………ほう?」
「好意を寄せられるのは嬉しいです。でも応える気はありません。私はザナークさんが、」
「分かった分かった分かった!」


手をかざして先の言葉を制する。そう何度も言われるとたまったもんじゃない。こちとら余裕ぶってはいるが、何度も『好き』を連発されて混乱手前なのだ。
はあ、と一息。すいません、と小さく再び謝罪の声が聞こえるが気にしない。

――こういうヤツなのだ

引っ込み思案。声は小さいし背丈も小さいし人見知りだしとまあ、コミュ障オンパレード。顔は可愛らしいのだがいかんせん、常に俯いているため暗いイメージしかない。
ザンの一員だが常にベンチ。能力を一切生かしきれない、つまり宝の持ち腐れ。
しかし何故かガロはやたらと名前を欲しがっているようで、何度も言い寄っているシーンを見た事がある。確かその度SARUやらの背後に隠れてたっけな。幼馴染とか言ってたっけ
俺との接点は正直ほぼ0に誓い。同じチームで何度か言葉を交わした程度だ。初対面で言ってる事がまったく聞こえなかったから、『ボソボソうざってえ』は言った気がする。


「なあ、何で俺?」
「……へ?」
「俺のどこが良いんだよ、元々フェーダの人間でもねえのによ」


ただ、単純に疑問だった。――どうして自分なのか?数回しか言葉を交わした事のない程度なのに、俺を好きだと言い切る眼には迷いが感じられない。
引っ込み事案で人見知りなコミュ障に答える事が出来るのか?面白半分で名前の顔を覗き込む。
――――そして、再び絶句。


「好きになるのに理由なんていらないですよ」
「………は?」
「その、敢えて言うのなら……ザナークさんの自信に満ち溢れた態度が、凄く格好良くて」
「………」
「眩しいな、って思いながら見てたら好きになってました」


返答によっては遊んでやっても……と考えていた俺の考えが一瞬で崩れ去る音がした。
頬を染めながらも、満面の笑み。しかも普段のボソボソ喋りではなくハキハキとした口調で、流暢に。
大事な宝物をこっそり見せるような、少し自慢げな顔で

――――初めて、俺の目を見て喋ったのである。


「…………………………」
「あ、あの……ザナークさん?」


ルートクラフト越しに顔を覗き込んでくる名前。一旦目を閉じて、再び開ける。心配そうな顔で迷惑でしたか、なんてまた聞いてくるものだから少しイラっとした。


「正直お前の事に関しては、今までは毛程も興味が無かった」
「う゛っ」


ぐさりと刺さったのだろう。呻き声を上げてルートクラフトの座席に突っ伏し黙り込む名前。よし静かになった


「―――まあ、それは今までの話だ。俺は今お前に惚れた」
「そうですよね、私なんてやっぱり駄目ですよね、メイアさんみたいに美人でもないし―――え?」


滅多に見る事のないアホ面を晒して顔を上げる名前。――その瞬間を、見逃さない


「―――俺に飽きさせないようにしろよな」


いきなり唇に、なんて俺には似合わない。宣戦布告を耳元で囁いて、首筋に所有印を刻もうと強く吸い付いた。
ひゃ、と小さく漏れた声で口端が緩む。やっと見つけた、俺だけのもの。

――きっと言わなくても、俺はコイツに飽きないだろう



今惚れたんだからしょうがない

(名前?ボーっとしてると階段から落ちるよ?)
(名前、おい名前ってば)
(……名前?)

(―――さりゅー、私、ザナークさんのものになった……)
(……………なッ、え?)

(ねえ、冗談キツイんだけど)
(……ちゅーされた)
(はァ!?)


(2013/02/21)