メルトダウン



「ねえ、サリューはどうして私を傍に置くの?」


隣に座る、フェーダの皇帝でもある少年――サリュー・エヴァンに小さく問いかけた。サリューは着けていたゴーグルを額に押しやって私を見る。
久しぶりにサリューの目があらわになって、私は吸い寄せられるようにその目を見つめた。そんな私からふいっと目を逸らし、サリューははぁ、と呆れたように溜め息を吐いた。


「久しぶりに君が本物のバカだって思った」
「ひっ、酷いよ!」


思わず反論するとじろりと睨まれた。気まずくなって目線を逸らす。何で目え逸らすの、というサリューの問いかけに答えなれなくなった。だってバカなのは自覚している。

――――どうして、彼は私を傍に置くんだろう

私はそれでもセカンドステージチルドレンの一人だけれど、正直お世辞にも強いとは言えない。サッカーだって、多分組織中で一番弱いのは私だろう。能力だって高くない。……何故ここに居られるのかもわからない。

ただ、―――皇帝の傍に置かれているだけの存在だ。

どのチームにも所属せず、皇帝であるサリューの傍らに居るだけ。彼の事を昔から想い続けてきた私にとって、それはとても喜ばしい事だけれど。
でも、……でも、サリューの気持ちは分からない。好きでもなんでもなく、ただ傍に置いているだけなんて。


「ねえ、名前は僕の事好き?」
「………好き、だよ」
「ならいいじゃないか、このままで」


―――こうやって、定期的に私の気持ちを確認しては満足そうに微笑むサリュー。いつだって、問われたら嘘なんてつけない。だって本当に好きなんだもの

でも、これだけ。

キスするでも手を繋ぐでもなく(そもそもサリューはめったに私に触れない)、私に好きだと言わせて彼は微笑むだけなのだ。そりゃあ気になったって仕方無いと思う。バカだと言われても気になるものは気になるのだ。
けれど先程の質問を再び彼に投げかける勇気はもうなくて、そのまま俯いて床と睨み合う。隣でサリューが立ち上がる音がした。


「………あ」
「じゃあ僕はちょっと行ってくるから」


ちょっとした偵察、と軽く手を上げて部屋を出ていこうとする彼に思わず駆け寄った。グローブ越しに腕を掴むと小さく息を飲む音。


「ねえ!……サリューは、私のことどう思ってるの?」


普段ならそのまま「いってらっしゃい」と彼を送り出すけれど、もう我慢は出来なかった。この手を振り払われてもいい。でも聞いて欲しいという思いを込めて必死で掴む。


「何も言ってくれないんだもん、……サリューの事わかんないよ」


本当ならあなたの傍らに居る権利なんてないはずなのに、なんで好きだと言わせるの?これじゃ私が好きなだけで、その想いを弄ばれているのならば、――そうだとはっきりして欲しかった。

答えてよ、と呟くと掴んでいた手が振り払われるのが分かった。ぴくりと体が反応する。ああ、やっぱり聞いちゃいけなかったかな?これでもうサリューの傍には居られなくなるんだろうか


「……え?」
「これでも大事にしてたつもりなんだけど」


ふわり、と優しい暖かさが私を包んだ。

抱きしめられていると理解した瞬間、顔に火がついたみたいに熱が集中して思考が飛ぶ。
触れられる事が少なかったからだろうか、サリューの手が触れている箇所が熱を帯びているように感じる。

―――体が溶けそうなぐらい、熱くなるの


「好きでもなんでもないんなら、傍に置いたりなんかしない」
「じゃあ、……何で言ってくれなかったの?」
「言わなくても分かってくれてると思ってた、ごめん」
「分かるはずないじゃない、――じゃあ、何で触ってくれなかったの」
「だって大事にしたかったし、……触ると自制効かなくなりそうだったから」
「っ、バカ!」


自制なんていらないよ、と小さく呟いた私に降ってきた優しいキスに脳までとろける感覚を覚える。

――――ああ、このまま二人で溶けて一つになってしまおうよ



メルトダウン 

(――今日の偵察は中止だ)
(不安にさせてごめん、名前)
(じゃ、自制いらないんならベッド行こうか?)

(覚醒したサリューがエロいです)
(私はどうすればいいですか?)

(どうもしなくていいと思うよ)
(ひゃあああっ!?み、耳舐めないで!?)



(2013/01/17)