トマト嫌い克服法

「不動君、ちょっと待とうか」
「ンだよ」


ここはイナズマジャパン宿舎。
夕食後、食堂を出ていこうとする不動の腕を引っ掴んで引き寄せ押しとどめる。
手にはしっかり証拠品。逃しはしない、というか良い度胸だ。
孤高の反逆児だかなんだか知らないが、


「お残しは許しまへんで!?」
「どこの食堂のおばちゃんだお前は」
「これからの練習を考えてバランスのとれた食事を考えてるの、全部食べて貰わないと困る!」
「………嫌いなんだよ、トマト」
「それはこれを見れば分かる」


私の手にしっかりと握られたお皿にはプチトマトが残っている。
そう、せっかくバランスを考えているのに残しやがったのである彼は。
イナズマジャパンのメンバーは全員(あの綱海君でさえ苦手な人参を)残さずに完食してくれたというのに、だ。
ちなみに秋ちゃん達他のマネージャーは既に食器の片付けを行っている。不動以外のメンバーのほとんどはここに残っており、何事かとこちらを伺っている。
見られている事を不動も分かっているのだろう、何やらそこまで喋る気はないようなので都合が良い。
今日こそ不動にトマトを食べさせる!それが今日の私の目標です


「さぁ!食べるんだトマトを!」
「嫌だっつの!」
「ほらみんな見てるよ?」
「ぐっ……」


言葉に詰まったらしく、悔しそうに唸る不動。あ、ちょっと気持ちいい
それに、だ。私にも聞こえているのだから不動にももちろん聞こえているだろう。
佐久間君の「不動にも苦手なものが…」という驚いたような声が!
小暮君の「マジで!?うわぁ意外www」という馬鹿にしたような笑いが!
ちらっと見えたけど鬼道君は心から楽しそうににやにやしてる。これは恥ずかしい


「何?食べさせて欲しいの?」
「ばっ、ばっかじゃねーのオマエ!?」


おお、珍しい!レアな赤面不動君いただきましたー
こうなると必然的に調子に乗ってしまうのが人間。プチトマトのヘタを手に取り不動君の口元に近寄らせる。おお、珍しく動揺してる


「はい、あーん」
「「「させるかああああああああ!!」」」
「えっ!?な、何してるの鬼道君と風丸君、それに豪炎寺まで」
「これは俺が貰う」
「佐久間君まで何を……ってそれ不動君のトマト!」
「「「「不動にだけ美味しい思いはさせん!」」」


飛び込んで来た鬼道君と風丸君と豪炎寺に不動君から引き剥がされる。
ついでに持っていたトマトは奪われて佐久間君の口の中へ。
わけがわからないが残っているトマトは後一つ、あ、不動君が逃げ……ていないだと!?
みんなが見守る中、私の持っていたお皿からおもむろにプチトマトを取ってヘタをお皿に戻した後、不動君はトマトをぽいっと口に放り込んだ。
やった!とりあえず目標達成!―――喜んだ次の瞬間


「ふみっ!?」


とろり、と口移しで口内に移動してくるプチトマト。


「ごちそーさん。……とりあえず調子乗りすぎた罰な?ほらトマト食ったし俺もう行くわ」


にやり、と妖艶な笑みを残して廊下に消えていく不動君に放心状態の私は何も言えなくなった。どうしよう顔から火が出そうだ



トマト嫌い克服法

(俺にトマト食わせたかったら口移しな)
(不動キサマあああああああ!)
(ちょっと宿舎裏に来い!)
(……スノーエンジェル!)
(おま、廊下で氷技使うんじゃねえ!)
(なるほど、よしお前も見てたろ虎丸、グラディウスアーチだ)
(了解です豪炎寺さん、遠慮なんていらないですよね!)
(立向居、……ちょっとマジで助けてくれ)
(魔王・ザ・ハンド!)
(お前もかああああああ!)

(―――あ、飲み込んじゃった、どうしよう佐久間君)
(今すぐ吐き出せ苗字!)



(2012/12/23)