君に拒否権はないよ
(※ミストレが雷を苦手にしている設定)


あー……大きな音に驚くのは分からなくもないよ。そりゃあそうだ、暗闇でいきなり大きな音を聞かされるんだもんね。驚くよね。しょうがない。うんうん、しょうがないって。まあ誰にでも苦手なものの一つや二つはあるもんね。…っふふ。

いやいや、笑ってないよ!…ふふ。え、だって、本当に意外で……って、泣きそうな顔しないでよ!…してない?気のせい?何もそこまで意地張らなくていいのに。それに雷の音はともかく風の音はそこまで怖くない…わけでもないんですね、ごめんなさい。配慮が足りてませんでした。…でも、"あの"ミストレが、雷が苦手、ねー。別に言いふらしたりするつもりはないけど、面白いこと知っちゃったな。――でも、ピストル向けられるとか、そっちの方が怖いと思うんだけど私…えっ、それは怖くない?……変なの、私には分かんないなあ。自分の命が世界で一番大事だしさー。

じゃあアレだ、こんな風に暗闇と大きい音が苦手なら、お化け屋敷とかも苦手だったりする?――へえ、苦手なんだ。女の子とデートするんなら遊園地とか、行ってそうなのに。それとも意図的に行かないようにしてるとか?うわ、もったいない!楽しいのに!…え、絶叫系は大丈夫なの?まあ女の子はミストレと遊園地に行くならお化け屋敷と観覧車は外さなさそう。観覧車は…あ、うん、得意なんだ。大体予想はついてた。OK。

でも本当、今日の雨は凄いね。私?さっき帰ろうとしたら傘が吹き飛んじゃって、それで引き返してきたの。まさかぽっきり折れるとは思わなかったよね…結構使い込んでた傘だから、そこそこダメージが大きくて……まあ古い型だったから、新しいの買えると思えばいいんだけどね。せめてもうちょっと雨の勢いが弱くなるの待てば良かったな。

え、今日?迎えは別に呼んでないよ。走って帰ればまあ悪くて風邪引くぐらいでなんとかなるんじゃない?…な、何その顔。そりゃ寒いし濡れるけどしょうがないじゃん、傘折れたんだから。腹くくればなんとかなるって。別に雷の音は怖いと思わないし…雷が自分に直撃したら?ミストレってそんなこと考えてるの?昔ならともかく、今はそんな風にならないようにきちんと整備されてるし、ちょっと全身濡れるだけじゃん。音は確かにびっくりするけど、そこまで過度に怖がるものでも……ってそんなに睨まないでよ。え?……あー…雷怖くない人間に?怖いと思う人間の気持ちは分からない?確かにそうだけど、そんなにぼそぼそ喋らないでよ……調子狂うじゃん。ほんと、今のミストレをエスカ君に見せてあげたいわ。腹抱えて笑われる?私はいいと思います。


………おー。


…今の雷、結構大きい音だったけどだいじょ…うぶじゃなさそうだね!?ちょっ、ミストレ!冷静に!冷静になって!離れてってば!え、あ、こわ、怖い!?そんなに怖かった!?私はむしろ今のあんたの方が怖いよ!いきなり首に抱きつ、っ待って待って待っ、絞まってる、絞まってるから!死ぬ、まっ、ミス………




**


あーもう!ほんっとムカつく!そもそも名前、アンタほんとうるさい!人が本気で怖がってるっていうのに煽ってくるとか何なんだよ!そんなにオレが雷苦手なのが面白いの!?なんとか言ったらど……えっ?ちょっと待って、なんで白目向いてんの?気持ち悪…じゃなくて?!なんで!?ちょっと待ってよ怖いじゃん!?アンタが話してくれるから気が紛れてきてたのに!というかさっきの雷なんなんだよ!音デカいよ!早く起きてってば!この役立たず!……な、なんで白目向いてんのほんと…

え、これもしかしてオレ?あー…そういえば今日授業で締め技習ったっけ…いつかバダップにかまして白目拝んでやろうって……無意識でやっちゃうって、オレもしかして結構締め技得意?上手い具合に名前も落ちてるし…じゃない!ええと、こういう時って下手に動かさない方がいいんだっけ…というか、これでオレが雷苦手って記憶だけ落ちてくれたりしないのかな。とにかく起こさないと…誰かに見られただけでまずい。

あー、あー、名前?早く起き……っ!?ま、また!?またどこかで…!もう本当勘弁してってば…!もうやだ、もうやだ…!早く起きろってば!このオレがこんなにお願いしてるのにアンタまだ起きないの!?悪かったってば!お願いだからさっさと起きろって…!


**


……うわあ、目の前がチカチカする。私寝てた?…うわ!?いきなり!?ちょっ、ミストレ!近い近い近い!腰触んないでびっくりする!え、何でこんな…――あ!アンタじゃん私のこと締めたの!いくら怖いからって流石にアレは許、ちょっ、何で本当に泣きそうなの…ってあああ!泣かないでってば!は、はあ?オレの泣き顔が?レアなんだからな…?いやそんな場合じゃないけどお望みなら写真撮ろうか…?携帯のカメラしかな、うわ叩かないでよ!いやグーと本気はほんとに勘弁!ご、ごめん、ごめんって。まさか自分で私のこと落としといて怖くなって泣くなんて思わないじゃん……

私何分ぐらい落ちてたの?三分ぐらい?でっかい雷落ちたんだ?あー…ごめんごめん、怖かったね?っ痛い!さ、触るなってそんな理不尽な…自分から抱きついてきててそんな事言う?…あー、はい、尊厳ね…はいはい。別に頭撫でたわけじゃないのに。背中はダメなんだ。別に刺したりしないのに。というかそんなに警戒するんなら抱きつかなきゃいいじゃん。…ゴメンナサイ。怖いんだったねそうだったね!誰にでも怖いものはあるよね!

え、私が苦手なもの?うーん、この雷は怖くないけどヒビキ提督の雷は相当怖そうだなあって思うよ。物理的に消されそうで。でもサングラス外したら案外優しそうな顔してるんじゃないかって最近は考えたりしてるかなあ。ギャップだよギャップ!ミストレのこれもギャップってことでいいんじゃない?女の子達も意外な弱点にきゅんきゅんするって。

……私?いや、意外過ぎて最初は面白かったけど今はなんかもう驚き通り越して悟るというか、普段の態度と違い過ぎて逆に新鮮だなあ。むしろ世界はオレ中心に回るぐらいオレ綺麗だろ!惚れてもいいよ!ってミストレに人間っぽいところがあったんだなあって思うぐらいで……待って、今はちょっとゴロゴロ言ってるだけだから。服と一緒に肉も掴まないでくださいお願いします。ダイエット?余計なお世話!


………。


「お、雨ちょっと弱くなったっぽい?」
「……帰るの」
「何、まだ怖い?流石にもう雷はそんなに鳴らないと思、」
「オレの迎えが来たら家まで送ってあげるけどまあ断るはずないよね」
「う!?ひょっ、ほっへた!いひぁ、」
「アンタがいくらバカでも濡れたら風邪引くだろうと思った優しいオレの配慮を断るはずないよね?だから迎えが来るまで待つよね?」
「………はふぃ」


君に拒否権はないよ



(2015/01/07)


普段すごくナルシだったりするタイプの子に予想外の弱点があったらいいなあっていう話