誘惑慣れ


今日は七夕。イナズマジャパンでも、七夕飾りを作ることになった。

提案したのは春奈で、真っ先に賛成したのは円堂だった。「いいじゃないか、七夕!一年に一度なんだ、楽しくやらなきゃな!」という円堂の笑顔に釣られた全員(一部覗く)は七夕の準備をすることになったのだ。夏未や秋、冬花なんかもとても楽しそうに折り紙や飾り付けの後にみんなで食べる夕飯の準備をしに買い出しに行ってしまった。笹を手配してくれたのは監督だ。

わいわいと楽しそうにはしゃぐ小暮や春奈、壁山はカラフルな鎖を作っている。小暮の場合は意図的に壁山に飾り付けていて、壁山は身動きが取れずに誰彼構わず助けを求めている。不器用な綱海は立向居に切り紙を教えて貰っていて、円堂と染岡はヒロトやら鬼道やらに鶴の折り方を教えて貰っていた。豪炎寺や土方は流石お兄ちゃんと言うべきか、率先して飾りを量産し(豪炎寺はやたらと熊を折っているような…気のせい?)笹に飾り付けていた。体育館にはほのぼのとした雰囲気が漂い、見ているだけで和んでしまう。

同じ作業をすることで、より親睦が深まるだろうという監督の言い分にも納得だった。だがしかし!親睦を深めようとしない、意地っ張りというのはどこにでも居るものだ。体育館の中には飛鷹と、それから不動の姿が見当たらなかった。「名前、二人を探してきてくれないか?」…円堂からそんな風にお願いされたら、断ることなんて出来ませんとも。


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体育館の裏で密かに個人練習に励んでいた飛鷹を、体育館に連れて行くのは比較的簡単なミッションだった。親睦を深めるいい機会だから、と言えば飛鷹は少し考えてポケットから櫛を取り出した後、しばらくヘアースタイルを整えてウス、と小さく頷いた。多分、本音としては行きたくてしょうがなかったんだと思う。

飛鷹を綱海と立向居のペアのところに連れていくと、面倒見のいい綱海も立向居も大歓迎だと笑ってくれた。それを見てちょっと嬉しそうな顔を見せた飛鷹は、やはり折り紙に触れるのは随分久しぶりだったらしい。覚束無い手で折り紙を折る飛鷹に、丁寧に風船だの星だのの折り方を教える立向居と海だ!と青色の折り紙を飛鷹に押し付ける綱海の様子はとても微笑ましい。そう、飛鷹に関しては割とすぐに馴染めそうな雰囲気は感じていたのだ。

――まあ、問題はもう一人の方としか言えない。


「不動くーん。おーいおーい」
「………」
「ぼっち練習寂しいよ不動くーん。ほーら」
「…………」
「オーストラリア戦は終わったんだから、一人で壁に向かってボール蹴らなくてもいっ!?」
「黙れ聞こえてんだよブス!」
「不動みたいな根暗にだけは言われたくない!」


女の子にボール蹴ってくるなんて最低だわこいつ。夕飯トマトだけにしてやろうか!

ブスに地味に傷つきながら、反射的に足で受け止めたボールを軽くリフティングして受け止めた。「…七夕?くだらねえ。時間の無駄だ」絶対行かねえ、と吐き捨ててベッドに腰掛けた不動を睨む。「あのねえ不動、いつまでも意地張らないでよ…呼びに来る私だって面倒なんだから」既に鬼道とキラーフィールズ決めてるんだから、そろそろ腹をくくって欲しい。必要最低限の協調性はないと困るのだ。

ほら行こう、とベッドに座る不動に近寄って腕を取った。「行ってないの不動だけなんだから…ここで行かないと逆に空気読めない認定だよ」「読めなくていい」「…あー、孤高の反逆児はツンデレのデレの部分を見せてくれてもいいと思うの」「ンなもんお前に見せるか」腕を振り払った不動が、ゆっくりとベッドから立ち上がる。

「ああ、やっぱり見せてやってもいいぜ」にたあ、と明らかに悪役の笑顔を見せた不動が私の腕を掴んだ。「…見せるって何をよ」「お前の言うツンデレのデレ、ってやつ」要するに優しくしろってことだろ、と真顔で言い切った不動はなんにも分かってない!


「どうでもいいからさっさと行くよ!」
「嫌だっつってんだろうが!――それより、俺と良い事しようぜ名前チャン?」
「いい声で言っても駄目なもんは駄目。私は円堂と先に約束してるから」
「チッ、これだから…」


再び私が腕を掴んでも、今度は抵抗されなかった。変わりに耳元に息を吹きかけられたけど、円堂の笑顔が待っていると思えばまったくダメージにならないから不思議だ。「不動、そういえば私にブスって言ったね?」「………何の事だ」「またまたとぼけちゃって!……しばらくトマトが安いかもしれないなあ」みるみる不動の顔が青くなっていくのは見ていてとても面白い。あ、これは簡単に連れて行けるやつだ!



誘惑慣れ



(2014/07/07)

地味に七夕ネタ。不動と夢主は付き合っています。夢主は円堂至上主義。キャプテン大好きな厨房担当マネジ。っていう設定だった。
ちなみに体育館にドナドナされた不動は円堂やら鬼道さんやらのところに入って桂剥きしてたので器用だと思うんで綺麗な切り紙作って円堂にすげー!って褒められて気後れしてるのを周囲に微笑ましい目で見守られてるといいなって思います。