雑談をしよう!
(・買い物話と同じく引き抜き)


オズロックはなんだかんだ、面倒見がいい。

わりと生真面目で、例えば私がアースジャパン用のではなく私物の、何度も着まわしたせいで少しくたびれたTシャツとジャージを…夜なら見逃してくれる。が、昼間身につけているとその場に相応しい服を着ろと苦々しい顔で言い出すのだ。ついこの間もおにぎりのご飯粒が唇に付いていたらしく指摘を受け、その反動で思わずオカン、と呟くとものすごく嫌そうな顔をして睨まれた。その日の夜は、私だけおかずが一品少なかった。空野ちゃんが気まずそうに私とオズロックを交互に見ていたのを覚えている。


「……要するに何が言いたいんですか」
「イシガシ達にもあんななの?オズロックって」
「いえ、まったく。…苗字名前、あなたが特別だらしないからなのでは」
「私ってだらしない?しっかりしてると思うけど」
「訂正します。気が抜けているというか、阿呆というか、間抜けですね」
「突き刺しおった…」


シャツの胸を掴んで机に突っ伏すと、「確かに放っておけない人ではあります」なんてイシガシが言い出すもんだから思わず顔を上げていた。「放っておけない?」「ええ。目を離すと何をしでかすか分からないんでしょう…服のまま浴槽に浸かったりだらしのない格好で歩き回ったり、」「あーあーあー聞きたくなーい!」耳を抑えて再び机に突っ伏すとおでこが机に当たってごん!と音がした。痛みに小さく呻きながら、ぼんやりと指摘された事柄を思い出す。

まあ、つい昨日だ。練習試合をして、私は天馬君の指示で剣城とFWを交代して…普段ベンチから一歩も動かない(そういえば十年前、イナズマジャパンにも伝説のベンチがいたと聞く)言うなればベンチの守り神となっていた私だったのだが、久しぶりに試合であんなに動いたのだ。何度もシュートを止められるもんだから躍起になってシュートを打って…結局久しぶりの疲労にぼんやりとしていたら、お風呂に服のまま浸かっていた。そしてそのまま眠っていた。さくらに見つかって酷く怒られ、そのびしょ濡れの格好のまま浴場を出たところでオズロックとイシガシに出くわしたのだ。着替えた後、眠気も吹っ飛ぶお説教を小一時間聞かされて昨日はあまりよく眠れなかった。


「確かにあれは私が悪かったけどさー」
「貴方以外に誰が悪いというんです」
「…シュートがんっがん止めて、私をムキにさせたフォボス?」
「フォボスも今日は腕が痛いと苦い顔をしていましたが」
「……まあ、ムキになった私が一番悪いんだけどね?」
「分かっているのなら良いでしょう」


諭すようにするイシガシから目を逸らした。これはお説教ではなかろうか。「…どうしました、苗字名前」「いや、その…悪いと思ってるって!気が抜けちゃっただけだよ」それよりそろそろ、と無理矢理話の方向を逸らすことにする。イシガシのお説教は、私が悪いと私の口から言わせるからオズロックよりタチが悪いんだもの。まあ、そんなことよりも。


「イシガシ、いつまで私だけフルネーム呼びなの?いい加減面倒臭くない?」
「……慣れてしまったんですよ」
「天馬君は普通に天馬って呼んでるのに」
「我が儘ですね…以前は様を付けるなと騒ぎ、チームに加入すればフルネームをやめろと」
「いいじゃん!前は敵だったけど、今は仲間でしょ」


ほらほら名前って呼んでみてよ!と茶化してイシガシの手を取ると、イシガシが少しだけ目を見開いたあとに私の手を振り払った。「……うるさいんですよ」……おいおい今目の前の女顔をした綺麗な宇宙人は何て言った?え、何、もしかしてイシガシって私のこと嫌いだったの?いやでも嫌いだったらこんな風に一緒のテーブルでお茶なんてしてくれないと思ってたよ?「あ、いえ、違います…うるさいというのは貴方ではなくですね」そろそろと身を引いた私を見て、慌てたようにイシガシが付け足した。


「……オズロック様がうるさいのです」
「へ?オズロックが?なんで?」
「何故かと問われるとこれは私の口からは言えませんが、甘やかすなと」
「えええ、名前で呼ぶのは甘やかしなの!?」
「私があなたを甘やかしているように見えていると」
「むしろイシガシは時々オズロックより辛辣だよね」
「…何か?」
「なんでもありません!」


とにかくそういうことです、と珍しく早口で締めくくったイシガシが目の前のお茶を一気に煽った。「オズロック様は、私とあなたがこんな風に粗茶を頂くのもあまり好んでおりませんしね」「うえええ、そうなの…オズロックはやっぱ分からないや」オズロックはどれだけイシガシのことが好きなんだろうか。…いや、もしかしたら腹心の部下を私に近寄らせたくないのかもしれない。でもオズロックに嫌われている風ではないし……と思いたいし……あああもう!わけがわからない!


**


「あ、オズロック」
「……なんだその気まずそうな顔は」
「気まずいというかなんというか…」
「では何故目を逸らす」


イシガシと別れた数分後。廊下でばったりと出くわしたオズロックから思わず目を逸らしてしまうと、不愉快そうに眉を潜められた。何故だろう、私は何も悪いことをしていないはずなのに。「やましいことでもあるのか」「な、ないですけど」イシガシを私から遠ざけようとしているということはつまり、私はイシガシに悪い影響を与える存在だと認識されているんじゃなかろうか。どれだけ私はオズロックのなかで低評価なんだろう。これでも実力はどっこいどっこいだと思ってるんですよ私としては!


「いや、だってしょうがないじゃん!?ソウルはともかく、オズロックのはチートでしょ!そのオズロックと対等な勝負が出来る一般人の私は頭に割り振るスキルポイントを全部サッカーに振っちゃったんだって!」
「……は?」
「ぶっちゃけるなら絶対、顔に割り振るポイントも女子力に割り振るポイントも全部サッカーに極振りだよ!ええそうですよ!ちくしょう美人でサッカーが強い宇宙人なんて!」
「……」
「…な、なにその威圧…負けないからね?絶対オズロックには負けないからね?今はスターゲイザーに負けてるけど、私だっていつかはそれを越えるぐらいの必殺シュートをっつう!?」


――ぐるん、と視界が回ったかと思うと背中に硬いものが触れた衝撃。「…無駄な時間を過ごした」石ころでも見るような目で私を見下ろしたオズロックに、どうやら足払いをかけられたのだと気がついたのは私を放り出して歩き出したオズロックの足音に気がついてからだった。「くっそー!女の子になんてことすんの!」少し遠くなった背中に吠えると、ぴたりとオズロックが動きを止めた。振り向いた横顔が溜め息を吐く。


「良くわからんが、顔を気にしているのか」
「……な、なにいきなり」
「確かに平凡極まりないな。床に這いつくばっているのも相まって無様だ」
「オズロックが足払い仕掛けてきたんでしょうが!」
「―――見られなくはないだけ良いだろう」
「そりゃ見られなくないならいーけどさあ…ってえ?待って?」


もしかして、オズロック今褒めた?慰めた?物凄く回りくどくてわかりにくいけど、今のってデレ?「オズロっ、」「今のは失言だ。忘れろ」咄嗟に立ち上がってオズロックに駆け寄ると、ものすごい顔で睨まれた。でも気にならない!「待って待って待って!うわー!意外だ!むっつりだと思ってたのにさらっとそんな事言えるな……んて思ってなっうわあ!」どうやらこっちは失言だったみたいだ。再び反転した視界の隅に、オズロックが歩きさっていくのが見えた。その顔が少しだけ赤く見えたから、嫌われているわけではないんだろう。やっぱりオズロックも宇宙人とはいえ、恥ずかしいことを言ったら年相応に赤くなるんだなあ。ああよかった、なんだか安心しちゃった!


雑談をしよう!

(名前、廊下で昼寝?流石の俺もそれはちょっと…)
(天馬君変な誤解やめよう?)

(2014/05/16)

前回の買い物話と同じかんじ。暗くないオズロックさん書くの楽しい