買い物へ行こう!
(・引き抜きっぽい。みんな仲良し)


そもそもアースイレブンのみんな(私を含む)は、宇宙人に甘いと思う。

晴れてチームの仲間となったオズロックが、地球に視察に来ていた時のことをぽろりと話したのだ。文明が進んでいない星だ、とオズロックに評されたそれに反論はなかったけれどまさか、それを"あの"兄弟がいるところでオズロックが話すなんて。…まあ、こぼした後にしまったという顔をしたのはオズロックにしては珍しかったと思う。慣れとは恐ろしいもので、チームのメンバーとしてすっかり馴染んでしまったオズロックが少しばかり苦手とするのはガンダレスとリュゲルのやりとりだった。天馬君達と過ごすことによりおそらく生来の真面目な性格が顔を出してきたオズロックは、リュゲルがガンダレスに間違った知識を教えているのを常に複雑そうな顔で見ているのだ。(ちなみに最近は横から口出しするようになっている。チームメイトの仲が良くなるのは喜ばしいことなので、私と天馬君は優しくそれを見守っている)

まあ、オズロックとバラン兄弟の話はともかく、先程の話に戻る。どれぐらい文明が進んでいないのか興味がある!と言い出したガンダレスにリュゲルが間違った知識(未開拓の地が多いだとか、まともな教育を受ける施設があまり無いだとか)をいつも通り得意気な顔で説きはじめたのだ。今ここに居たのが天馬君ならば、やんわりとリュゲルの間違いを正すことが出来たのだろう。しかし残念なことに今この場にいるのは私とオズロック、そしてリュゲルとガンダレス。私は間違いを正すもなにも、リュゲルがガンダレスにドヤ顔を決めながら知識を分け与えている姿は和むなあ、なんて思いながらぼんやりとそれを眺めていた。

すると反応しない私を見かねたのか、代わりと言わんばかりにオズロックが遠慮もなしにばっさり違う、と言い切った。リュゲルは言葉を詰まらせて、ガンダレスは不思議そうに首をかしげて兄の名前を呼んだあと私の方を振り向いた。「ねえ名前、俺さあ、チキュウ!実際に見てみたい!」……そのきらきらとした笑顔にどうやって抗えというのだろうか。私は知らない。そもそもガンダレスの純粋無垢な笑顔は反則だと思いますバラン家お母様。

その後、話はトントン拍子に進んだ。ガンダレスが地球に来てみたいんだって、と私が天馬君に伝えると天馬君は理由も聞かずいいね!と笑顔を返してきた。少し渋ったのはオズロックぐらいで、カゼルマやポワイ、ヒラリやアルベガにロダンといった面々は地球が辺境の星と言われているのもあってか、かなり興味津々な顔で食いついた。美味しいものがたくさんあるの!と嬉しそうにはしゃいださくらの言葉に女子メンバーはきらきらと目を輝かせていた。地球に宇宙人を連れていくのはどうなのかと思う部分もあったけれど、案外地球人は適応力が高いし何より…まあなんとなく大丈夫だろうという結論に全員が至ったので私達はみんなを、地球に招待することにしたのである。


**


そんなこんなで現在、私の横にはリュゲルとガンダレス、オズロック。


「なあなあなあ、これなんつー野菜なんだリュゲル兄!?」
「ガンダレス、それはキャベツだ!」
「っはー!すっげー!やっぱすげーよリュゲル兄!」


二人の様子を見ていたオズロックが頭を抱えた。「どうしてこうなったんだ…」「いや、なんか本当ごめんね」どうしてこうなったのかというと、私達は買出し班に任命されたからとしか答えられない。答えられないのだけど…「リュゲル」「なんだ名前!」「それね、似てるけどね?…レタスだから」「レタス?」揃って首をかしげる兄弟は、野菜売り場のど真ん中で買い物中の奥様方の目線を独占しきっている。

学校でカレーを作るところまでは良かった。役割をくじ引きで決めようと提案したヒラリは絶対、リュゲルとガンダレスの扱いに困るから私と買出しに行かせたに違いない…!「リュゲル、キャベツはそっち。レタスは…一応買っとこうか。オズロック、トマト取ってくれる?」顎で使うかこの私を、と言わんばかりの目線で睨んできたオズロックをさらりと流してドレッシングをいくつか手に取る。さくらが絶対に欲しい!とサラダを主張したから買いにきたわけだけど、正直もう一人常識人(希望を言うなら神童か信助…皆帆君は兄弟を煽るからアウト)をつけて欲しかった!今なら分かる。これは厄介払いに違いない。オズロックも多分、料理出来ないタイプなんじゃなかろうか。現にイシガシは調理半に割り当てられて不安そうな目線をオズロックにやっていた。あれはもしかしたら料理が出来ないオズロックが割り当てられたのが私のところで不安に、


「……おい」
「え?あ、トマト!ありがとうオズロック」
「5つで良かったのか」
「うん、足りると思う」


ぼんやりと巡らせていた考えを断ち切った、赤色のまるまると太った美味しそうなトマトのパックをカゴに入れた。そしてはたと気が付く。――黒と白の特徴的な髪の色が視界に映らない。「ねえ、……ところであの二人は?」「レタスを放棄して向こうへ行ったが」……頭を抱えずにはいられない。見ていたのなら止めてよオズロック…と口に出すと睨まれそうなので黙ってオズロックが示した方へ顔を向けた。カラフルな飾りが少し見える。


「あー……多分お菓子売り場だ」
「菓子売り場?」
「カラフルだしいろいろ置いてあるし目を引くし」


だんだん、兄弟の思考回路が読めるようになってきた気がする。うん、あの二人もお菓子買ってあげたら少しは大人しくなるかもしれない。スーパーに来るだけで大変だったし、帰りは少しぐらい楽をしよう!「そうだ!オズロックにも何か買ってあげるよ!」「…良く分からんが、いらん」「まあまあそんなつれないこと言わずに」「いらんと言っているだろう」「じゃあ私が選んであげるよ。そうだなあ、オズロックにはねるねる…」「待て、なんだその菓子の名前は…っ、おい待て!」嫌そうな顔をしたオズロックに野菜やらドレッシングやらが入ったカゴを押し付けて足取り軽やかにお菓子売り場へ向かう。

予想通り、リュゲルとガンダレスがカラフルなお菓子に目を奪われてきょろきょろと周囲を見渡していた。私に気がついたガンダレスが名前名前!と私を呼ぶ。「名前!すっげーな、ここ!」「見たことないものでいっぱいだ…これは何だ?」リュゲルも知的好奇心をくすぐられたのか、チーズケーキの写真が入った菓子の箱を手にしていた。ガンダレスは棒付きのチョコレート(キャラクターの顔が入ったやつだ)をいくつか手に取って興味深そうに眺めている。なんだろう、とても穏やかな気分になれる光景だ。


「ガンダレス、好きなものいくつか買っていいよ」
「ほ、ほんとか!?すっげー!名前もすっげー!」
「名前!お、俺は!?」
「リュゲルも」
「太っ腕だな、名前!」
「お腹ね?次言ったら買わないからね?」
「な、なんだと…」


ショックを受けつつも数種類のお菓子がいくつかの箱に入っているアソートを手に取るリュゲルは大分、目ざといと思う。さて、私のお目当てはこの目の前の水色の袋だ。「私はオズロックにこれを…」ぼんやりと魔女の姿を思い出しながら袋を手に取ると、背後から待て、と非常に低い不機嫌丸出しの声が聞こえてきた。「……おい、その手に持っている奇妙なものが描かれた袋はなんだ」「さーて二人共!買うもの決まった?私はみんなにポテチも買おうかな!」「カゴに入れるな!…なんなんだこれは…」なんだかんだ、荷物を持ってくれるオズロックは優しいと思う。世界征服を目論んでいたなんて思えない。そして数ヶ月前の私も元テロリストを荷物持ちに買い物にくるなんて思ってもいなかったなあ…「名前ーっ!俺、これとこれとこれが欲しい!」「ずるいぞガンダレス!名前、俺はこれだ!」(多分おそらく)同い年の宇宙人にお菓子をこんな風にねだられるとも思っていなかった。やっぱり天馬君達について行って良かったと思う。人生何があるかなんて本当に分からないものだなあ。


買い物へ行こう!



(2014/04/29)

お誕生日に捧げよう!と思ってて書いてたんですが収集がつかなくなって頭を抱えました。バラン兄弟とオズロックさん、どちらが喜んで貰えるのかなあと思って迷ったのですが結局どっちも入れよう、となりました。お誕生日本当におめでとうございます!ほのぼのしたものを書きたかったので、目標は達成…してたらいいなあ…ガンダレスは棒付きチョコレートとカラフルなチョコレート、それから吹くラムネを持ってきてたらいいなと思います。リュゲルはアソートと棒付きキャンディー、グミだったらいいな!オズロックさんに是非ねるねる以下略を食べて顔をしかめて貰いたい。

引き抜き設定の可能性無限大ですね…!オズロックさんが普通の子供になってしまった感じがしましたがすごく楽しかったです!以下おまけです



●月×日、晴れ

今日はみんなで、テンマ達の学校で…ええと、ガッシュクってのをやりました。カレー、すっげーうまかった!リュゲル兄もうまいって言ってました!オレはリュゲル兄と名前と、それからオズロックとすーぱー、ってとこに買い物に行きました。れたす、もきゃべつ、もそっくりなのに、リュゲル兄はやっぱすげーや!違いが一目で分かるんだ!あと、名前がお菓子を買ってくれました。この白いの、甘くてちょっと酸っぱい。名前が言うとおりにしたら音が出てリュゲル兄もびっくりしていました。名前もすっげー!ちょこれーと?はロダン達とも一緒に食べました。みんなびっくりしてた!

でもリュゲル兄はさっきから、名前に買ってもらったお菓子を眺めて溜め息ばっか。せっかくテンマの家に泊まってるのに楽しくないのか、と思ってどうしたんだいって聞きました。そうしたら買い物の時、名前の荷物を持ってやれば良かったって言ってました。オズロックが名前へのこうかんど?を上げてるらしいです。よく分からないけど、オレは名前とリュゲル兄が幸せになってくれたらいいなと思います。でも多分、オズロックも名前が好きなんじゃないかと思います。それからオレも、名前が好きだと思います。名前はリュゲル兄には負けるけど、リュゲル兄の次ぐらいには頭がいいし!すっげーんだ!明日はみんなでサッカーをやるらしいです。楽しみだ!