NON

言ってしまった。
ぼくとしたことが、後先考えずに口が動くなんて。
きっと、焦りだ。
いつも見せない表情を承太郎の前で見せる名前に、焦りを覚えたせいだ。
したがって承太郎のせいだ。許さん。
じゃなくて、名前が出て行ってしまった。


「やっぱり…早すぎたか…」


そうだ、早すぎたんだ。
何も焦る必要なんか無いのに。
名前はぼくが好きだ。漫画のキャラクターとしてじゃなく、一人の男として。
これは自惚れじゃない。ぼくは名前と違って鈍感じゃないんだ。
だけど不安だったんだ。人間の心は変わるから。
名前の心が仗助や承太郎に向いてしまう前に、ぼくのものにしたかった。


「露伴先生?」

「っ!?…こ、康一くんか」

「どうしたんですか?玄関開けっ放しでしたよ」

「いや…ちょっとな…」


名前の奴め、ドアぐらい閉めていけ。
康一くんは玄関が開けっ放しなのに気づき、何かあったのか心配になって来てくれたらしい。
どうせ康一くんはぼくの気持ちなんか知っているだろうから、康一くんに相談しよう。


「名前に…好きだと言ったら逃げられてしまったんだ」

「えぇ!?告白したんですか!?露伴先生が!?」

「なんだよ、ぼくからしたら駄目だって言うのかい」

「いえ…。だから名前さんあんなに顔真っ赤にしてたんですね」


どうやら康一くんがここに来る途中、名前とすれ違ったらしい。
その時の名前は真っ赤で、康一くんにすら気づかなかったらしい。


「どこに向かったか分かるかい?」

「多分あっちだから…海かな?」

「またか…」


というか、海は危険だ。
何しろ承太郎が居るかもしれない。
ぼくは康一くんに留守を頼み、名前を迎えにいくことにする。
何としてでも、名前と承太郎を会わせたくなかった。



名前は海岸を歩いている。
陽が暮れて、冷たくなった風が頬を冷やした。
どうしよう。逃げてしまった。
何で逃げてしまったのか。


「露伴のバカ…」


名前の呟きは、暗い海に消えていった。
まさか露伴に好きだと言われるとは思っていなかった。
さすがに言葉にされると、名前だって気づく。
初めて見る露伴の真剣な目は、確かに自分に向いていたのに、足は勝手に逃げる体制を取った。
露伴は怒っているだろうか。ぼくが真剣に告白したっていうのに、何故逃げるんだ!とか言われるかも知れない。


「どうした、こんな時間に」

「…承太郎」

「露伴が心配しているんじゃないのか」


露伴という名前を出した時、確かに名前の顔が変わったのを承太郎は見逃さなかった。
その顔は切ないような、どうしていいか分からない、と言ったような顔だった。


「露伴と何かあったのか?」

「…どうしよう承太郎。どうしていいかわかんないんだよ」


オロオロとする名前を見て、承太郎は大体何があったか悟った。
そんな名前を見て、承太郎もなんとかしてやりたいとは思いつつ、自分の叔父の顔が頭に浮かぶ。
仗助、純愛だ何だ言ってる間に、手遅れになってるぞ。


「やれやれだ。名前、露伴のことが好きか」

「ズバッと聞くね…そりゃ好きだよ…嫌いなわけない」

「その″好き″は俺や仗助やと一緒の″好き″なのか」


つまり、承太郎は「露伴に恋愛感情があるのか」と聞いている。
名前はその意味には気づかず、うーん、とうなった。


「承太郎も仗助もみんなも大好きだけど、なんか露伴は違う気がする」

「そこまで分かってるなら、自分の気持ちも分かるだろ」

「でも、怖いんだよ…だって私は杜王町に居てはいけないはずの人物なのに」


なにを言ってるんだ、と承太郎が声を鋭くした。
いて悪いわけがない。
承太郎は名前の頭に手を乗せると、優しく言い聞かせた。


「もうお前はこの町にとって、この町の人間にとってなくてはならない存在だ」

「…そうかなぁ」

「少なくとも、俺はそう感じた」


だから、自分に素直になっていいんだ、と承太郎は名前の頭を撫でた。
遠くで露伴の声が聞こえた。
名前の名前を呼んでいることから、名前を探しに来たようだ。
ドア開けっ放しにしたこと、怒っているだろうか。
名前が心配すると承太郎は、きっと怒っているぞ、と小さく笑った。


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