NON

名前が弁当を作っていると、露伴が自分にも作れと言った。
ついでに、今日は学校を休めと指図した。

「は?何で?」

「今日は天気がいいからな」

「だから何でそれが学校を休む理由に」


出発は昼前でいいか、などと言っているが、名前が学校を休むというのは最早決定済だった。
名前に決定権などないらしい。
名前は抵抗するのを諦め、せめてどこに行くのか知りたがった。


「どこ行くの?ピクニック?」

「ぼくがそんな子供っぽいことするか」

「お弁当持って出かけること自体子供っぽいけどね」


弁当のおかずは多目に作っておいたので、それを弁当に詰めながら名前が言う。
彼なりに精一杯誘っているつもりだが、やはり彼女にはいまいち伝わらない。
というか、かなり直接に、どっかの控え目に言ってもミケランジェロのような奴みたく、直接的でないと彼女は気付きそうもない。
昨日のはかなりいい線行っていたのだが、露伴自身が効果があったなどと思ってないので無駄だった。


「海へ行こう」

「海?もう秋だよ?」

「だからいいんじゃあないか」


うるさいガキ共や、女をナンパするしか脳のないアホなサーファーが居ない。
だから秋の海がいいのだと言う。
確かに今年は海に行っていない。
泳ぐことはさすがに出来ないが、足をつけるぐらいのことはできるかもしれない。
まんざらでもなく楽しみになってきた名前は、手際よく弁当におかずを詰めていった。


海に行くと、さすがに泳いでいる人は少なかったが、まだちらほらうろついている人が多かった。
確かにもうすぐ秋だとは言え、日差しが照っていると暑い。
やっぱり水着持ってくればよかったかな、と名前は後悔した。
しかしやはり夏休みが終わって学校が始まっているだけあって、人口密度は低い。


「やっぱり、このくらいに来るのが丁度いいな」

「うん、人少なくて静かだ」


ゆっくりと波が動き、静かに音を立てる。
時々遠くから海鳥の声や、海に来ている人たちの笑い声がかすかに響く。
かなりロマンチックな雰囲気が流れているのに気づき、露伴は一人で勝手に赤くなった。
名前はただただ海を見つめ、波の音を聞いている。
今だぞ露伴。今が絶好のチャンスだ。
露伴は漸く決心し、名前に話しかけた。


「っ名前、」

「あっ!」

「え?」

「ちょ、露伴、後ろに隠れさせて」


何かを見つけたらしい名前は、露伴の後ろに隠れた。
少し密着してしまう形になり、露伴は心臓の音が聞こえないかとヒヤヒヤした。
だが、名前は見つけてしまった人物に夢中で、そんなこと気づきもしなかった。
あわれ露伴。
そして、その名前の注意を引きつけている人物とは。


「承太郎さん?」

「露伴か。久しぶりだな」

「ヒトデの研究ですか」


そういえば名前がヒトデがなんだとか言っていた気がする。
承太郎が持っている水の入った袋には、ヒトデが入っていた。
190もあり、かなり渋めの良い男が、ヒトデを片手に満足気な様子は、実に奇妙であった。


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