NON

名前が家に帰ると、露伴は漫画を書いているのか、シンとした空気が漂っていた。
今の気持ちにはありがたかった。
だけど、いつまでもうじうじ悩んでいては仕方ない。


「名前、帰ったのかい?丁度原稿が終わったとこなんだ」

「ただいま、露伴」

「おかえり。…なにかあったのか?」


ああ、どうしてこの人は変なところで鋭いのか。
そしてしつこい。


「言えよ。言うまで夕飯抜きだからな」

「えぇ!お腹空いてるのに…」

「何があったんだよ」


夕飯抜きは困る。
非常に困るのだ。
今日は疲れてお腹も空いているのに。
でもまた初めから話すのはめんどくさい。


「ヘブンズで読めばいいじゃん」

「…いや、君にはもうヘブンズ・ドアーは使わない。話せば良いだろう」

「えー!めんどくさい!また最初から…」

「また…?まさか、仗助か!仗助には話せて、ぼくには話せないっていうのか!」

「あーわかったよ!話すから!」


あまりのしつこさについに名前が折れた。
それも露伴の仗助だけには負けたくないという気持ちのおかげだ。
名前は仗助に言ったことを、再び繰り返した。
仗助に喋ったことによって、幾分かは気持ちが楽になっていた。
話し終わったあと、露伴は妙に納得していた。


「やっぱり、じゃあその記憶があの真っ黒いページか…」

「真っ黒?」

「君の記憶に、一ページだけ真っ黒で読めないページがあったんだよ」


きっと、そこには悲惨な日々が書き記してあるのだろう。
名前が露伴にも読めない箇所があるんだな、と考えていると、いきなり視界がぐらりと揺れた。
気づけば露伴の腕の中だった。


「露伴?」

「何だよ…」

「え、いや…それこっちのセリフ…」

「一番好きなぼくに抱き締められてるんだから、もっと喜べよ」

「えぇ〜!」


意味の分からない命令をされたが、露伴の心臓の音が早いのを聞き、どこかおかしくなった。
照れるのならしなければいいのに、不器用な奴だ。などと名前が思っていることは、露伴は知らない。

先に名前のことを知ったのは自分なのに、このことを先に仗助が知ったのが気に入らなかった。
それと、名前が酷く小さく見えて、なんだか消えてしまうのではないかと思った。


「……何かあったら、先ずぼくに言えよ」

「うーん、ちょっと今苦しいんだけど、どうすればいいかな」

「我慢しろ」


名前も無理やり脱出しようとは思わなかった。
露伴の心臓の音が心地よかったし、露伴なりに元気づけてくれているのがわかったから。
自然と名前の手は露伴の背中へと回ったが、そうなってくると耐えられないのは露伴で。


「うぐっ…苦しい!苦しいって!」

「……が、我慢しろ」

「できるかっ!」


照れ隠しのために、更に腕に力を込めてしまった。

その日、夢を見た。
唯一私の味方をしてくれたあの子が、最後に見たような悲しそうな顔をしていた。


「大丈夫。私、こっちで大好きな人達に囲まれて、幸せだよ」


名前がその子に向かって叫ぶと、彼女はニッコリ笑って消えていった。


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