NON

名前は今保健室で寝ていた。
ベッドのよこには仗助が座り、心痛な面もちで名前を見ていた。
しばらくすると、名前の目蓋がゆっくりと上がり、名前が気づいた。


「名前!」

「仗助…」


名前は仗助の姿を確認し、むくりと起き上がる。
頬に手を当てると、バンドエイドが貼ってあった。
心配そうに顔を覗く仗助に、名前は申し訳なさそうに笑った。


「なんか迷惑かけた?ごめん」

「迷惑じゃねぇよ…逆に、相談してくれなかったことがムカつくぜ」

「ごめん…今度は自分で解決したかったんだ…」


今度?と聞く仗助に、大したことじゃないんだけどね、と名前が返した。
名前は自分の内に秘めていたことを、ゆっくりと言葉に出し始めた。
なんだか、仗助になら打ち明けられる気がした。


「私、前に居た世界でも、いじめられてたの」


仗助が息をのむ。
なにか言いたげだったが、仗助は名前が続きを話すのを待った。


「すっごいモテてる人が居てね。そりゃあもう仗助以上に。学園のアイドルみたいな人が。
私その人と普通の友達で、何にもなかったのに、ある日私とその人が付き合ってるって噂が流れたの。
もちろん身に覚えもないし、否定したけど信じてもらえなかった。
何でかな、と思ったら、その人が肯定して回ってたのね。
後で聞くと、女の子が寄ってくるのがめんどくさかったから、ある特定の一人と付き合ってたら、その子たちも諦めると思ったらしいの。
その人のことを好きだった人もいっぱい居たし、女の子グループのトップの子も好きだったらしいの。
次の日から、学校の全員が敵だった」


その男を恨んでいるのか、それともいじめていた側を恨んでいるのか。


しかし、名前の顔からは恨んでいるような表情は汲み取れなかった。


「私ってこんな性格だから全然怯まなくて、どんどん孤立していった。
でも私には親友が居たの。
その子だけは私と一緒に居てくれた。
でも、少しずつ私だけじゃなく、その子も標的にされてきて…。」


いつも逃げるように屋上に居た。
ある日、その子も屋上に来た。
彼女の腕に、血がにじんでいた。


「大丈夫、って笑うんだ…。
その時、私が居なくなればいいんだと思って、屋上から飛び降りたの」


全部思い出した。
私は、自分でフェンスを乗り越えて、足を踏み出したんだった。


「飛び、…降りた?」

「多分、その時にこっちに来たんだと思う」


だから、向こうの世界に未練はないという。
一つだけ、飛び降りたときに見た最後の彼女の悲しそうな顔が、心配だ。
全部を聞いて、仗助は何と言葉をかけていいかわからなかった。


「ごめん…俺、守るって言ったのに、何もできなかった」

「何言ってんの!私はこの世界にこれてかなり嬉しいんだよ。仗助と友達になれただけで、天にも昇る気持ちなのに…」


もう忘れるから、気にするなと名前は言った。


「ありがとうな、話してくれて」

「私も仗助が聞いてくれて嬉しかった。なんか、ジメジメした話でごめんね」


明日からはまた、笑顔で登校できるように。
そういって名前はベッドから降りた。


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