NON

俺の名前は噴上裕也。青春真っ盛りの男子高校生だ。
ひかえめに言ってもミケランジェロの彫刻のように美しい俺。運動もできるし歌も上手い。
すべてにおいて完璧である俺(勉強のことは聞くだけ野暮だっつー話だ)にもかかわらず、健全な高校生らしく悩みがあった。

「なに噴上、邪魔なんだけど」


それはクラスメートの苗字名前に関する悩みだ。
この女は、女にも関わらず俺のことが好きじゃないらしい。(いろいろなツッコミは我慢の方向で)
この!美しくてかっこよくてひかえm(中略)噴上裕也をだ!
そんな女が居るのかいささか疑問だが、俺にも理解不能なのだ。


「名前、おはよう」

「今は昼だバカ。それと気安く呼ぶな」

「素直じゃねぇな!よし、デート行くか?」

「行くかバカ。寝言は寝て言え」


今日も俺のアピールをことごとく無視してナチュラルに横をすり抜けられた。
よく見れば名前は大量のプリントを抱えていて、それを職員室に運ぶ最中だったみたいだ。
ここは、美しくてかっこよくて優しい噴上裕也を見せてやろうじゃねぇか。
そうすれば名前もきっと自分のことを好きになってくれるに違いない。
俺のことを嫌いな女がいてはいけないのだ。
スタスタと歩く名前の肩を掴み、名前を呼んだ。


「おい、名前」

「わっ」


ドザー

やっちまった。


「ちょ!噴上、何すんのよ!」

「わ、悪い、わざとじゃ…」

「あーあ…もうヤダ…」


突然だが、俺は女の涙が苦手だ。
しかもその涙が、日頃勝ち気で明るくて、涙なんて絶対に似合わない女が涙なんか流した日には、どうしていいのかわからなくなる。


「お、おい!?名前、」

「何なのよ…あんた…」

「っ…」

「噴上、あたしのこと嫌いでしょ…」


嫌いなもんか。
名前は涙でプリントを汚さないよう気をつけながら、廊下に散らばったプリントをかき集めた。
どうしていいのかわからない俺は、とりあえず名前を抱きしめる。


「!?ちょっと、噴上…」

「嫌いなわけねぇだろ、こんなにアプローチしてんのに…」

「アプローチ!?ハッ!どこがよ!あんたのはナンパって言うの。あんた誰にだってアプローチするじゃない」


なんという屈辱だ。俺のアプローチをナンパだと。
しかし、実際軟派な俺を見て、名前は嫌がらせされていると思ったらしい。


「俺は誰にだって同じようにするけど、名前は他の女の子とは全然違うな」

「当たり前でしょ。噴上なんかにデレデレしてるようなのと一緒にしないで」


これだよ。この美しくて(略)な俺を噴上なんか呼ばわりだもんな。
名前が『俺のこと嫌いなわけない』んじゃなくて、俺が嫌いになってほしくないんだ。


「名前、俺は他の女の子と、名前のときとは違うぜ」

「どこが違うのよ…一緒じゃない」

「名前の時は愛がこもってるから」

似てるけど、全然違うぜ。




あいをこめて





いいから早く抱き合ってないでプリント拾いなさい


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