NON

いつだったか、名前とぼくが出会ったのは。
ある晴れた秋の、天気のいい過ごしやすい日だったような気がする。
古本屋でぼくの漫画を(ありえないことに、ぼくの漫画を売る奴が居る)立ち読みしていたのが名前だ。
立ち読みするぐらいなら買えよ、と思いながら見ていたら、なんと名前は立ち読みでぼくの漫画を読破してしまったのだ。
どれだけ量があるのかはぼくが一番知っている。古本屋の店員も困った顔をしていた。
ぼくもずっと見ていたわけだから、随分無駄な時間を過ごしたわけだ。
そしてあろうことか名前はそのまま結局何も買わないで店を出たのだった。
流石に店員も「えー…」と声に出していた。
変わった奴を見ると、やっぱりそいつの考えを見たくなるだろう?
ぼくは後ろから名前に近づいてスタンドを発現しようとした。
だけど、空中に絵を書こうとしたとき、名前の手がぼくの腕を掴み、スタンドが発現することはなかった。


「ヘブンズ・ド、なにッ、…!?」

「露伴先生ですか?」

「君はいったい…」

「仗助たちから聞いてます」


どうやら彼女もスタンド使いだったらしい。
それで仗助や康一くんなどにぼくのことを聞いていたらしい。
長くなったが、ここまでがぼくと名前の出会いだった。
どうやらぼくの話を康一くんたちに聞いて、興味を持ったのでひとまず漫画を読もうと思って古本屋で読んでいたらしい。
それからというもの、名前は何故かぼくに懐き、ぼくの家に頻繁に訪れるようになった。
それは別にかまわないのだが、訪問目的が気に入らない。


「今日ね、転んじゃって、仗助が治してくれたの」


来る日も来る日も仗助の話ばかり。
恋する乙女というやつか、名前はほんのり染まり、笑顔はキラキラ輝いていた。
恋をすると綺麗になるというのは本当だ。
その相手があのクソッタレの仗助というのが不服だが、ぼくは仗助に恋をする名前に恋をしたのだ。


「君なぁ、そんなに好きなら告白すればいいじゃないか」

「無理無理!だって仗助は私なんか眼中にないからさ…」

「そんなのわからないだろ。毎日のように大嫌いな奴の話をされる身にもなってみろ」


正直、名前の口から仗助の名前が出るだけで吐き気がする。
つくづく気に入らない奴だ。
無理だよ、と名前はしょげる。


「今日、仗助が可愛い女の子と歩いてるの見たもん…」


どうやらあのクソッタレの隣を歩くのは、名前じゃないらしい。
ぼくとしては最悪の事態(名前と仗助がくっつくことだ)は免れたが、名前にとってはまさに最悪の事態が訪れているらしい。


「でもいいんだ。ゆっくり忘れるからさ」


名前は眉をハの字にして笑った。
ぼくは本当に性格が悪い。
好きな女性が哀しんでいるのに、チャンスだと思っている。
今なら仗助に向いた矢印を、ぼくの方に向けることができるかもしれない。
今までずっと我慢してきたんだ、試してみるくらいいいだろう?


「名前、君に言いたいことがあるんだが…」


ゆっくりなんて言わなくていい。
すぐに忘れさせてやるさ。




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