NON

大切な人が亡くなって、旅に出た。
大切な人を見つける旅に。


Pretty Vacant



イタリアにいた。
色々な国を巡ったが、日本のように四季があり、食べ物は美味いし、イタリア人は気さくだし、とてもいい国だ。
治安の悪さをのぞけば……


「オイコラ金出せや」

「もっと持ってんだろォ」


どうみても薬やってます、みたいな男数人に囲まれ、ナイフをピトピトと頬に当てられる。
日本人はカモられやすいと聞いていたが、ここの辺りはわりと治安がいい(有名なギャング、日本でいうヤクザみたいなものか?が取り締まってるとかで)と聞いていたから油断していた。
後ろから声をかけられ、ホイホイと路地裏まで連れてこられたってところだ。
自分だって男だし、わりと鍛えているがさすがにこの人数でしかも刃物まで持ってると抵抗できない。
今まで各国を旅して何度かこういう目にあったが、大体はいくらか渡すとどこかへ行ってくれたのだが、こいつらはそうはいかないらしい。


「うーん、俺も生活あるしさ、それで勘弁してくれないかなァ」

「ナニ舐めた口聞いてんだ……」

「……ッ」


ダンッと強かに頭を壁に叩きつけられる。
あーヤバイなこれは完全にイッちゃってる。だれだよ、治安がいいとか言ったの……取り締まってるギャングさんたち仕事しろ。
オイそろそろ……と男の一人がそわそわし始めるが、俺の頭をグリグリと壁に押し付けている男の耳には聞こえてないらしい。
完璧ラリってらっしゃる。
そのうち男は奇妙な笑い声を響かせながらナイフを俺の肩口にグリグリと突き立てた。


「う、うぐァ……ッ」

「バカにしてるだろお前俺をバカにしてやがんな、ゆるさねぇゆるさねぇゆるさねぇバカにしてる」


俺がなにしたっていうんだ!勘弁してくれ!
男はなおもブツブツと呟きながら同じ箇所をグサグサと刺す。
脂汗がじわじわと壁に染みる。
クソ……一般人に使うのは嫌だったが、こうなりゃ仕方ないか……
もう知らねーもんね、と相棒の名前を呼ぼうとした瞬間、ガァンガァンッと四発、銃声がした。
それと同時に頭を押さえつけていた手が離れ、その男は悲鳴を上げて地面にうずくまっていた。
他の仲間も同様に足を抱えて苦しそうに呻いていた。


「えっ、なに?銃声!?」

「オイッ大丈夫かよ……って、あんまり大丈夫じゃなさそうだな……」


遅くなって悪かったな、とバツが悪そうに駆け寄ってくる一人の男を視界に写したのが最後、俺は意識を手放した。

それが、俺とミスタの出会いである。
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