NON

控え室のドアを開けると、トリッシュはあら、ミスタ久しぶり、と微笑み俺の後ろで挙動不審になっている名前に目を向けた。


「そちらは……」

「あぁ、新入りの」

「名前です!!今日はよろしくお願いします!!」

「よろしくお願いするのは私のほうなんだけどね、あなたが噂の名前なのね」


トリッシュはテンションの高い名前に若干引きながら初めましてと挨拶をする。
噂の、って……どういう噂になってんだ。あながち予想はつくが。


「全くうちの父にはうんざりだわ……ただの握手会なのに」

「ほんとだぜ、一々駆り出されるこっちの身にもなれってんだ」

「……ミスタ、機嫌悪い?」


トリッシュが珍しい、というふうに俺に聞く。
名前は相変わらずトリッシュをガン見していて、面白くないのは確かだ。
自分の中でふつふつと湧き上がる感情に戸惑いつつも、なんとなくその正体に俺は確信を持っている。
あー……アレだ。懐いていたペットが、他のヤツにやたら懐いて面白くないのと同じだ。うん。
分かってはいるが認めたくはないのでそういうことにしておく。
それから名前は始終ソワソワしていて、握手会の最中もずっとトリッシュに夢中だった。
途中お忍びで来ていたボスが親衛隊にバレて引きずられて連れ帰られるなんてこともあったが、襲撃なんて物騒なことが起こるわけもなく握手会は平穏に終わった。
トリッシュは別れる際「たまにはみんなでご飯でも食べに行きましょうね」なんて言い残して行った。


「トリッシュ可愛かったなー……つーかミスタ、一緒にご飯食べるくらい仲いいの、トリッシュと」

「まぁ……昔色々あったんだよ」


フーンと名前は少しムスッとして、ちょっと妬けるなァなどと言い出した。
それはこっちのセリフだ。と言いたいのを必死に飲み込んでいると、名前がだってさぁ、と続ける。


「俺の知らないミスタいっぱい知ってるんだろ?」

「……は?」

「なんかずるいよなー」

「そっちかよ……」


そうだった。こいつは1に俺、2に俺、3、4も俺で5も俺だ。
だから四六時中ミスタと一緒にいてミスタと出会ってなかった期間を取り戻してんだ、という名前に正直重い…とは思いつつも熱くなる顔を止めることはできなかった。
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