私専用



「いつまでそうしてるつもりデスカ」

「ほっといて」

「言ってくれないと分かんねえよ」

「別になにもない」

「あっそ、」


はあ、ため息をついて頭をかく彼。本当に
めんどくさいと分かっていても私の気持ちは
沈んだままでそんな態度ばかりとってしまう。
鉄朗はバレー上手いし頼りになるし優しいし
かっこいいし自慢できる私の彼氏。なのに!


「みて!黒尾のジャージ借りたんだ!黒尾の匂いがするぅ」


黒尾のクラスと合同体育の時間。
たまたま聞こえてきた会話に耳を傾ける。
あれは確か鉄朗と同じクラスの斎藤っていう子。女の子らしいふわふわした雰囲気が人気だと聞いたことがある。そしてそんな彼女を包み込むのは鉄朗のジャージではないか。私が来た時にはぶかぶかだった彼のジャージは彼女が着ると胸のあたりだけきつそうだった。


「あんたすごい怖い顔してるよ」


友達にそう言われ自分の顔が強ばっていることに気付く。たかがジャージを女の子に貸したくらいで、彼女は私だし、なんて自分を説得してみるが彼のジャージが匂いが彼女を包んでいると考えると頭に血が上るような感覚。小さなことで嫉妬していると思われたくなくて、でもジャージを貸した彼にも少し腹が立って、昼休みの今も私の態度は冷たくなってしまう。


「鉄朗ぶさいくだったら良かったのに」

「ぶさいくでも俺のこと好きになってた?」

「度合いによる」

「おい」


私以外の女の子は鉄朗に興味持たなくていい。
そしたらジャージ貸さなくてもいいもん。私だけが鉄朗の匂いを知っていたらいい。独占欲強いな、と自分の新しい一面を知る。


「俺さ、」


お前が何に怒ってるか知らないけど、と前置きを入れて彼が話し出す。


「自分でもビビるくらい他の女に
興味ないんだよネ」

「え?」

「それだけ名前のこと好き」


そう言いながら私の頭を大きな手で撫でる彼。安心感を与えるその手が愛おしくてしょうがない。


「私の方が大好きい」

「ご機嫌は直りましたかお姫様」

「うんっ」


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「斎藤」

「あ、黒尾ぉ」

「それ俺のジャージだよな?」

「あ、うん。寒かったから借りちゃった!
黒尾のジャージ大きくていい匂いするねぇ」

「悪ぃけど返してもらっていい?」

「え?」

「俺の彼女専用なんで、このジャージ」


私専用