赤々と燃える村、もくもくと昇る黒煙、地に染み込んだ血はまだ新しい

先程までこの地獄絵図に反響していた断末魔はついさっき潰えた



(…あーあ、また派手に食い散らかして)


一体誰がこの後始末をつけると思っているのだろう。そう思案すると溜息が止まらない。

村の後始末をするだけなら何も異存はないのだ。現に、他の忍隊の奴らは嬉々としてそちらな任に向かった。

あちらは本当に雑務しかなく、何も心配することなんてないから。


(問題はこっちなんだ…)

視界に入ったゆらゆらと揺れる銀色の髪に、本日一番の溜息をつき、跳躍した。





「明智様、お迎えにあがりました。帰りましょう。」

「おや、また貴方ですか。残念ですね。今日こそは他の方の美しい悲鳴を聞けると期待していたのに」

「こう何人も優秀な忍を減らされたんじゃ迷惑ですからね」

「それで貴方が私の為に?」

「いいえ押し付けられただけです。」

「そう謙遜しなくとも良いのですよ。今日こそはあなたの美しい死に様が拝める、ということなのですから。」

「ご冗談を。私の命は信長様に捧げていますので。」

「それを奪うのもまた一興ではないですか」

「……悪趣味な」


目の前で獲物を血に染め、恍惚とした表情で笑う男…明智光秀を連れ帰ることが信長様からの命だ


…全くなんて命を下してくれるのだろう

すっかりトんでしまっている目の前のこいつをどうやって連れて帰れというのか。悩む。


下手に引っ張って帰ろうとすれば最期、快楽主義な明智と相棒は村ひとつ潰しておいてまだ物足りないらしい


「今日はどこを刻んであげましょうか。その傷一つない顔でしょうか、まだ癒えぬ腹の傷を踏み付けてみましょうか、…ああ、その曇りのない目を刔ってみても良さそうですね」

「素直に帰る選択肢はないのですか?」

「愚問ですね」

「全く。今日も力づくですか」

「白々しい。あなたにだって素直に帰る気などないでしょうに」

「……まあ、」



男に指摘されたように、目の前に対峙している男にいつ命を奪われてもおかしくないという状況にも関わらず、自分の口角はそれはもう楽しそうに吊り上がっていた


確かに言われてみると、私が毎度この任に就くのは、これ以上この男に味方を減らされる訳にはいかない、という建前だけではないのかもしれない


(ああ、この男の銀が、真っ赤に染まる様がみたい、)


抑えられない感情が沸々と溢れてくる。


(ああほら、目の前の男も楽しそうに笑っている)

(壊したい、この男の狂気を孕んだ血を浴びたい、)


きっと私はこの男の狂気に当てられてしまったのだろう


地を蹴る音と、金属の衝突音が聞こえるのはほぼ同時のことだった



澆季の果てに


***


ぎょうき[澆季]
道徳が衰え人情の浮薄となった時代。末世。季世。






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