---カラン--
「おぉぉー…」
「何でとまってんの?早く入っちゃいなよ」
何て言って私を押してくる佐助を見れば、例え慶次じゃなくてもこう言うことだろう、無粋であると
週末の帰りのこと。
誰かきっと分かってくれるよこの気持ち
だって、今しがた訪れた此処は
テレビや雑誌で最近話題のケーキ屋さん、っても、高級って形容詞が付くくらいオシャレなお店なのだ
つまり毎月金欠と戦う学生さんには到底縁のない場所だということ
白っぽくて明るい内装に、扉を開けた瞬間に広がる甘い匂い
床も壁もトランプをモチーフにした落ち着いた色調の大人びたデザインで、まるでアリスの世界だ
贈り物の焼き菓子なんかのラッピング1つとっても、近所の親しみのあるケーキ屋さんと比べて小洒落ている
こんなメルヘンチックなお店に入ってフリーズするのは致し方ないと思う。庶民の悲しい性だよ。
まあしかし、夕方になるとOLさん、土日になると親子連れ…と客足が絶えないというこのお店は、今だってお客さんは少なくない訳で
「おぉ!!見よ佐助!このケーキが…!」
「何個も買えるもんじゃないんだから考えて選んでよね」
「美味そうだなー。まつねえちゃんと利にも買って帰るか!なっ、夢吉!」
「キキッ!」
「全く、何故我が貴様らとこのような場所にこなければならぬのだ」
「まあそう言わずによ親御さんの結婚記念日なんだろ?何か買って帰ってやればいいじゃねーか」
「何故貴様がそれを…!」
…………喧しい。
どうみても、学校帰りの学生が揃いも揃って寄るような所じゃないだろう
…ときに慶次君、夢吉の入店は憚られるんじゃなかろうか
ほら見ろちょっと奥でケーキ作ってるおねえさんの視線がイタい
「まぁまぁ、そんな固いこと言うなって」
「え、何で私の考えてたこと分かったの?慶次エスパー??」
「思いっきり声に出てたよいろはちゃん」
「まじでか。にしても、佐助はホントおかんだね」
「にしても、ってどっから繋がったの?てか、そう思うならいろはちゃんが旦那止めてよ。このままだったら、この店のケーキ全種類食べるとか言い出しかねないし」
「佐助知ってる?それで幸村が止まったらおかんなんて要らないんだよ?」
「いろはちゃんは遠回しに俺にはオカンという道しかないとでも言いたいの……?」
「え、何でわかったのー?佐助エスパー?」
「………泣きたい」
「泣くの?じゃあ皆に見てもらわなきゃね」
「何の為に?!」
「はい!皆ちゅうもk「はーいいろはちゃんいい加減にしようか。おいたが過ぎるぜ?」ごめんなさい」
「…お前らは一体何しに来たんだよ」
「………あ、政宗だ」
現れた元凶。
そもそも見るからに場違いな所に私達が来た理由は
目の前にいる彼の人――伊達政宗が最近ここでバイトを始めたから
安直にもそれを冷やかしに来たという訳なんだが、如何せん、人選がよろしくなかったなぁ
「だから聞こえてるっての。悪うござんしたね、こんな面子で悪ノリに乗っちゃって」
「いや、佐助はノープロブレムなんだよおかんだし。にしても、ホントにその制服様になってるね政宗」
「"にしても"大好きだねいろはちゃん、なんでこんな短時間に多用するの?」
「佐助にこの"にしても"の境地は理解できないよ」
「理解したいとも思わないけどな」
「Hey,honey。自分から口説いといて俺のことは放置かよ。そんなんじゃもてねーぜ?」
「うっさいバカ宗何でそうなる。そして佐助への徹底的なボケに隠した精一杯の照れ隠しをどうしてそんなに無駄にするんだよ」
「照れ隠しだったんだ。愛されてるねー政宗も。……てか、あれ、え、もしかして俺様そのためだけに誘われたの?」
「え、何で分かったの佐助エスパー?」
「生憎会話の文脈から流れ読めるくらいには日本語嗜んでるもんでね」
「しまった、佐助のが読めるのは空気だけだと思ってたのに」
「ねぇ、それどこまで本気?」
「ご想像にお任せします」
「何この子…あ、そんなことばっかり言ってたら、前にかすがに流してもらったいろはちゃんのコスプレ写真政宗に流しちゃうよ?」
「………は?!ちょっと!なんで佐助が持ってんのちょっと表出ようか今すぐ面貸せてか携帯貸せ!」
「そんなことしゃったら消されちゃうじゃん」
「当たり前だ!その写真も佐助も削除あるのみ!」
「ちゃん思考回路が浅井になってるよ」
「Wait!いつまで俺は放置なんだ?!……てかおい、コスプレって何だ」
形勢逆転。
「あ、食いついた。」
「言わないで佐助忘れて政宗」
「実はねー、友達の趣味に巻き込まれてコスプレさせられたた所をかすがに撮られたらしいんだけどねー、これがなかなか可愛かったぜ?三又槍とかミニスカとかハラチラとか…即席だったから独特の髪型だけは真似できなかったらしいけど。…送ろうか?」
「ここぞとばかりに勢いづくな!」
「GJ!是非そうしてくれ!」
「政宗もやたらテンション上げないでよ」
「そう照れんなって、もらった画像は大切に俺の部屋に保存しとくからよ」
「部屋って何?!なんで携帯のメモリーじゃなくて部屋?」
「佐助にもらったのを拡大でprintoutして部屋の天井に貼ろうかと思って」
「あ、もしかして、ベッドの上の天井に貼っといて朝目覚めたら まず最初にいろはちゃんのコスプレ姿を見れるように?」
「Yes!分かってんじゃねーか佐助!これで朝も寝覚めすっきり「それはやめてそれだけは!!」…いろははこのromanが分からねーのか?」
「分からないそれ以前にそんなことしたら成実にも見られちゃうじゃんやめてよそんなのしばらく会ってないのに久しぶりの再開がコスプレ写真なんてそんなことされた日にゃ恥ずかしすぎて爆死しちゃう」
「いろはちゃん落ち着いて、とりあえずブレスしようか……成実って、居候の従兄弟さん?」
「おう。てか落ち着けよhoney、そんな慌てなくても成実には見せねーよ。見せたらあいつお前に会いたい会いたいってうるせーし」
「成実は餓鬼か。でも良かった」
「えーでも成実と一緒にいろはちゃんのコスプレ見ながら語るってのもありなんじゃない?」
「どうして蒸し返すの?」
「honeyの隣でか…いいねぇ、そいつぁcoolだ」
「どこがcoolだ何だその公開処刑!」
「じゃあ俺も混ぜてよそれ」
「来てみろやってみろ!お前全員片倉さんに突き出してやる」
「なかなかの脅し文句じゃねーか……まぁ、そんなに顔を赤らめて言ったところで逆に煽るだけで怖くねーけどな?」
「……っ!!ああもう!」
埒外があかない。
少しの間の後に耳元で囁かれた低音のそれに(言葉じゃない。低音な、低音の方)あやうく腰が砕けそうになるのをこらえて、お言葉に甘えて早速脅し文句を発動させてみることにした
極殺発動の呪文。
「片倉さーんん!!政宗が仕事サボってますよーー!」
「ちょっ、おい馬鹿!ホントにやる奴があるか!」
――数分もしないうちに政宗は鬼の形相をしたオーナーの片倉さんに連行されましたとさ。
(さぁ、とりあえず営業妨害した分はきっちり買ったし、帰るか佐助!)
(一番安いケーキ1つ買っただけでよくそこまでやりきった感が出せるね)
(バカ言え。この一個の値段が今の月末の所持金のどれだけのシェア占めたことか…その決断も還元したら決して安くはないだろう)
(……いろはちゃん、次は金欠病が発症する前に冷やかしに行こうか)
(そうしようか……あれ、慶次たちは?)
(とっくに買うもん買って帰ったよんなもんいろはちゃん全然気付かないもんなぁ。政宗しか見てなかったし)
(……ホントに気付かなかった…)
(やれやれ……ここまでくるといっそ清々しいぜ)
周りが見えない奴らを止める俺の身にもなってほしいんだ
***
ちなみにいろはちゃんのしたコスプレは復活のあの子。
[←] [→]