*映画「ヒーローズ:ライジング」ネタ



「結局、積み荷はどこに行ったんでしょう? ヒーロー側は回収してないんですよね?」


とあるコンテナ。頬に手を当てながら、ダッフルコートに身を包んだトガは集っている仲間に問いかける。確定情報だと返した荼毘は壁に寄り掛かりつつため息をついた。先ほどから話題に上がっているのは、ドクターからの指示でトゥワイスに複製をつくってもらい輸送していた積み荷の話だ。


「結局さ、積み荷の中身はなんだったわけ?」
「ドクターいわく、知る必要はないそうだ」


コンプレスの言葉を一刀両断した死柄木に「なんだそりゃ」と眉をひそめたのはスピナーだ。実際指定された場所に配送すること、とだけ言われていたため詳しいことは何も語られていない。ヒーローに何かを配送していたことが漏れていたようで、邪魔をされ指定された場所に届けることはできなかったけれど。肝心の積み荷がどこかへ行ってしまったとなれば失敗も何もないだろう。


「配送だけさせてあとはだんまりか?」
「ちょっと気になっちゃうよね」


ボロボロのソファに死柄木と二人で座っていたなまえが納得のいっていないトゥワイスに苦笑する。死柄木はそんななまえを一瞥すると立ち上がった。


「とにかく忘れろ。いいな」
「了解! やなこったっ」
「いじわるー」


トゥワイスやトガの文句を聞き流して外に出ていこうとする死柄木になまえも慌てて後ろをついていく。先ほどこちらをちらりと見たのはついてこいの意味だろう。そばにいると決めているのだ、行動を共にするなど当たり前である。


「ドクターから何を言われてたの?」
「……触れてはいけない、忘れろ」
「そんなこと言ってたんだ……弔くん、もしかして中身知ってたりする?」
「さあな」
「あ。誤魔化すんだ。でも知らないって嘘つかないところは好きだよ」
「……おまえ」
「えへへ」


行動ではいつも負けっぱなしなので、言葉くらいでは優位に立ちたい。はにかんだなまえの額を突いた死柄木がいつものように手を顔につけようとすると、先ほど閉めたコンテナの扉ががらりと開いた。


「どこか行くんだろ。なまえは俺たちといるから、安心して行けよ」


完全についていこうとしていたなまえがきょとりと首を傾げる。何かを言うより先に荼毘に手を引かれたなまえはどうしようと二人を交互に見つめた。死柄木は顔につけるはずだった手を下ろし、何度か開閉を繰り返した後言葉を発する。


「離れたくないし、なまえは俺と行く」
「あららーこれは弔くんに軍配が上がってますねぇ」
「だな。今の台詞はポイント高い」
「外野うるせえぞ」


死柄木の言葉に目を輝かせたなまえの横目に、面白がって覗いているトガやコンプレスたちが映る。もしかして荼毘は置いていかれると思って寂しいのかもしれない。間違いまくった考えを導き出したなまえは、引かれていた手を両手でぎゅうと握る。


「だ、大丈夫です荼毘さん! 私がいなくてもヒミコちゃんたちがいるから全く寂しくないですよ!」
「とんでもない勘違いしてんな」


呆れた目を向ける荼毘に勘違いだったことにようやく気づく。寂しいわけじゃないならどうして自分を置いていこうとするのだろう。


「よく見ておくんですよ仁くん。あれが不毛な争いってやつです」
「勝者は決まりきってるし、そのうち泥仕合になりそうで見てたいな。興味ねえよ!」


なまえの疑問は晴れることなく、トガの言う不毛な争いはしばらく続いた。唯一離れて見守っていたスピナーは誰に聞かれることもない言葉をぽつりと呟く。


「……ある意味平和だな」


その通りすぎた。



春は短し夜明けは長し



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