「俺なまえのこと好きみたいなんだよね」
「ふーん?」


放課後。既に人のいなくなった教室で目の前の人物が呟いた言葉に、なまえは普通に返事をしてからようやく意味を理解した。うん? 好き、と言わなかったか。言った、よなぁ。


「……ごめんなんて?」
「ごまかすのへたくそじゃん。好きみたいつったの」
「えぇえ……気のせいじゃなかった……」
「なんだそれ」


からから笑う目の前の瀬呂はご機嫌だ。返事が遅れるのも気のせいだと思うのも当然だ。自分たちのつい先ほどまでの話題はお互いが一番だと思うコンビニスイーツだった。何がどうして告白になったというのだ。


「一番好きなスイーツの話してたら、あーそういや俺なまえ好きだったわって思い出してさ」
「理由聞いてもしっくり来てないけどね」
「まじ?」
「大まじ」


恥ずかしがろうにも唐突すぎて照れようがない。戸惑いが勝っていて逆に冷静でいられる。自分がもう少し天然だったのならここで「友達として? 私も好き!」と笑顔で伝えられたのだが。


「いつから? とか聞いたほうがいいの……かな」
「んー。気づいたら? きっかけは思い出せないんだけど」
「恋ってそんなもん?」
「そんなもんじゃねーの? なまえ以外好きになったことないからなんとも」


そこで言葉を切った瀬呂は、少しばかり口角を上げるとほんの少し顔を近づけてきた。どうしたのか問えば肩を震わせながらなぜか幸せそうに笑う。


「もう。なに?」
「いーや? ただ脈ありだと思って」


小首を傾げれば瀬呂が自身の頬をつんつんと二度突く。なまえも真似をして頬を指差せば頷かれた。


「赤いよ、顔」
「うえ」


すごく変な声が出てしまった。

指摘されるまで気づかないなんて、冷静と思っていたのは気のせいということじゃないか。頬を揉んでいれば「これ押せばいけるな」と本人がいるのに言ってきたので、とりあえず睨んでおいた。そう簡単に付き合えると思うなよ。なまえは拳を握りながら瀬呂に宣言をした。

――三日後、押しに負けて付き合うことになったのは言うまでもない。



最後に残る空白に口付けて



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