いつもより丸まっている背中に、多分怒ってるんだろうなあなんて呑気に息を吐いた。怒っているというか、機嫌が悪いのか。ため息も舌打ちも多い死柄木をじーっと見つめていたなまえは、徐に立ち上がり鼻歌交じりに彼へと近づく。そして腕を絡めて一言。


「弔くん、二人きりになりたいです」
「殺さない程度に崩壊させるぞ」


仮にも恋人に言うセリフではないことは確かだ。







結局手をぐいぐい引っ張って連れてきた部屋は随分と汚かった。ただでさえ悪かった機嫌は手を引っ張られたこともあり最悪だ。今にも五指が迫ってきそうな雰囲気はあるが、なまえはこの人が自分を傷つけないことを知っている。仕方がない人だと両腕を広げた。


「えいっ」


背伸びをして抱きつくと死柄木は面白いくらい肩を跳ねさせた。だがここでクスクスと笑ってしまうと離れてしまうのは目に見えていたので、なまえは動じずよしよしと背中を撫でるだけだ。


「何にイラついているのかわかりませんけど、早く機嫌直してくださいね」
「おい、やめろ……」
「ふふふ」


抱きしめられて身じろぐ死柄木がかわいくてやめられなかった。きっと何に怒っていたかなんて本人も忘れてしまっているに違いない。意味もなく腹の虫が治まらない愛しの恋人様に、自分がしてあげられることはこれくらいだ。


「いつもの弔くんに戻った状態でいちゃいちゃしたいなぁ」
「……しない」
「します!」
「しないっての」


髪を雑に撫でられ、彼の肩の力が抜けたことがわかってほくそ笑む。自分にかかればこんなものだ、と内心得意げに胸を張った。さて機嫌もよくなったことだし、そう思いなまえが体を離そうとすると手首を掴まれる。おっと、何かしてしまったかと微笑みながら首を傾げれば、死柄木は俯いたままぽつりと呟いた。


「もう少し」
「うええかぁいい」


つい本音が出てしまった。犬を愛でるように撫でつけてやれば死柄木は満足そうに息を吐く。このかわいらしい死柄木を知っているのは自分だけだと思うと最高に気分がよかった。



頭上にふさわしい色の石



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