「俺以外と仲睦まじくしてるだなんて、いい度胸してるなぁ」
「……は?」


上から覗き込むのは敵であるはずの荼毘だ。彼の右手に自分の右手首を。彼の左手に自分の顎を掴まれ身動きが取れないし、なんだか意味のわからないことを言われた気がする。仲睦まじくとは。


「それにこんな暗くて人も通らない場所を歩くのは感心しないぜ。悪い男に捕まっちまう」
「お前の、ことでしょ……」
「違いない」


そうだ、"個性"を使って迎撃しなければ。突然のことでついボケっとしてしまったが、右手が防がれているのならば左手を使えばいい。


「酷いよなぁなまえも。俺を怒らせようとわざとあいつらとつるんでんのか?」
「……?」


だけど、なんだろう。様子のおかしい荼毘に攻撃しようとした手が止まる。荼毘が何をしたいのかが理解できない。脳は早く逃げろと警告しているのに、体が動かなかった。


「別にいいけどな。もう、どうでもいい」


口角は上がっているのに、目は全く笑っていなかった。はあ、とため息をついた荼毘は突如名案を思いついたとでも言いたげに表情を明るくさせる。


「ああそうだ。あいつらみんな殺しちまおう……骨も残らないよう、燃やし尽くす」
「!? な、何を言ってるの」
「人のモンに手出したらどうなるか教えないとダメだろ?」


ようやく違和感の正体がわかって、なまえは眉をひそめた。本当に何を言っているのだろう、この男は。


「私はお前のものになった覚えはない」


だが荼毘はただ笑う。顎を掴んでいたはずの手がするりと下りていく。


「なまえが俺以外を望むなら、俺以外視界に入れなきゃいいんだ」


そうだろ? 首に食い込む指が痛くて苦しい。徐々に息ができなくなっていき、なまえは命の危険を感じる。抵抗しなければ、と改めて思い出したのは、気を失う瞬間だった。狂っている男は更に指の力を強める。


「あいしてる、なまえ」


荼毘の口から紡がれる愛の言葉は、まるで呪詛のようだった。



首すじは薄い硝子の造花みたい



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