「そろそろ諦めて私のものになれなまえ」
「捕まれロリコン」


ベストジーニストと同じソファに人一人分を空けて座ったなまえが吐き捨てるが、横の男は気にした様子を微塵も見せない。好きだと言われた。付き合うのは雄英を卒業してからでいいとも言われた。自分のどこを好きになったのかは知らないが、そもそもお前なんて好きじゃないと告げればその日からベストジーニストからの愛の告白が始まった。どうやら好きになってもらおうとしているようだ。普通なら好きになってもらう努力をするのが告白より先だろと思わなくもなかったが面倒なのでスルーした。


「なまえのために人払いもした。他に何か不満なことはあるか」
「今この二人きりの状況だよ」
「なるほど。ないようだな」
「おい……っ」


都合の悪いことは聞き流すのをそろそろやめてほしいものだ、腹が立つ。逃げ出したいが逃げ出そうとすれば自分の服がベストジーニストの"個性"によって大変なことになるのはわかっていたので逃げることもできない。ちっと大きく舌打ちをして鞄からスマホを取り出し触る。ベストジーニストとの会話より何倍も楽しい。


「ゆっくりしていけ。なまえ」
「は……わ、かった」


つい帰りたいと言うのを忘れてしまった。いつもはスマホを取り上げられて構ってくれるまで話しかけ続けるというのに今日はソファからデスクへと移動すると仕事を始めてしまう。仕事が多いのだろうか。まあ、面倒な時間が減るならどうでもいいが。家に帰ったら体力作りのためにトレーニングをしなければいけないな。……ゆっくりしていけって、なんだ。こっちはわざわざ来てやったというのに放置はないだろう。


「……仕事あるなら、来なかったけど」
「私はきちんと効率良く仕事をこなしている。心配は無用だ」
「心配なんてしてない!」
「どうしたいきなり」
「別に……!」


返事になってないし。効率良くこなしてるならなぜ今仕事をしているんだこの男は。心の中でグチグチと文句を言い、特に調べることもなければ連絡を取る相手もいなかったためスマホを鞄に戻す。そしてしばらく床を見つめていた目をそっとベストジーニストへと移した。真剣に書類へ目を通す姿は彼らしいといえば彼らしい。普段は市民を敵から守っているのだ、この人は。


「………」


だが、つまらない。


「? なまえ……」
「今見なきゃいけないものなの、それ」


ソファから腰を上げ、ベストジーニストの元まで歩くと腕を掴む。なまえの耳は赤く染まり、視線も下ばかりを向いていてベストジーニストと目は合わない。


「寂しかったか、すまなかった」
「さっ……みしくないっ! 呼んだのはそっちなんだから責任もって最後まで話せつってんの!」


わかっている、心の底から嫌なら呼ばれても無視すればいいことくらい。絶対に言ってはやらないが、ベストジーニストといるのは嫌いではないのだ。いつからこんな気持ちになったのかは忘れた。あれだけ構われたら気持ちの変化くらいする! と開き直っている。


「突然だが」
「なに……っ!」
「押してダメなら引いてみろという言葉は知っているだろう、なまえ」
「……あ?」


ポカンと開いた口が塞がらない。勢いよく距離を取り鞄を手にして帰ろうとすればベストジーニストの"個性"によって秒で拘束された。


「卒業後が楽しみだ。返事は決まったようなものだからな」
「ヒーローが寝言言ってんじゃねえよ!!」
「キレると更に口が悪くなる。なまえは矯正しがいがあっていい」
「されるか!」


ベストジーニストがふっと笑ったのがわかりなまえは睨みを利かせる。してやられた! となまえは後日初めてベストジーニストからの呼びつけを無視した。それでもまた会いに行ったとき気にした様子もなくお茶菓子を出されイラついたのは別の話だ。



夜に滲むはあなたのまぼろし



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