「あのね」
「え、なに?」
「昨日の夢で環が出てきた」
「……突然すぎてびっくりしたよ」


そうなんだ、と頷いた天喰はぴとりと寄せられた体に固まった。ロボットのようにぎこちなく顔を動かせばかわいらしく頬を膨らませたなまえが自分の腕に抱きついている。


「なんでそんな適当なの環。夢にまで出てきたんだよ? 愛されてるなあくらいの感想は持ってほしいんだよねっ」
「愛されてる自覚は普段からあるよ」
「環……ハッ、危ない流されるところだった!」


こんな茶番ができるのはなまえだけだ。今日は随分と甘えたな日だなあなんて思いながらとんとんと背中を優しく叩いてやれば、なまえは目を細め天喰にすり寄った。赤子をあやしている気分だと言ったらなまえはきっと怒るだろう。なんとか我慢して天喰は笑みを浮かべるだけにとどめた。


「それで俺が出てきた夢の話って……?」
「ああうん。環が好きっていう女の子が出てきてね」
「え」
「その女の子が私よりかわいくて。環が取られちゃうって焦った私と女の子が、どっちが環に相応しいかじゃんけんで勝敗決めるみたいな夢」
「突っ込みが追いつかない……!」


自分を好きだという女子は過去も未来もなまえしか現れないだろうし、なまえよりかわいい女子も早々現れないだろう。天喰がそんなことを考えているとは露知らず面白い夢だったと笑うなまえ。勝敗をじゃんけんで決めるとはどういうことだ。夢とはいえ適当すぎる決め方に天喰はええと戸惑う声しか出せない。


「……俺なまえしか好きにならないよ、絶対」
「あはは、ただの夢だよ。環が私のこと大好きなのわかってるから、夢でも嫉妬しなかったし」
「俺が取られるんじゃないかって疑いはしたのに……?」
「意地悪な言い方だよね」
「ごめん」


謝る声色が全く反省していない。どちらからともなく絡められた指に笑みがこぼれて、なまえの夢に落ち着いて突っ込みを入れる。


「とりあえず俺はモテるような男じゃない」
「サンイーターはモテモテだよ。隠れファン多そうなイメージあるなぁ」
「なまえ以外をかわいいと思ったこともないし」
「うれしい……けど、その発言は他の子の前でしちゃだめだよ環」


あと自分が言いたいことはなんだろう、天喰は冷静に言葉の続きを考えた。好きとか愛してるとかを囁くのも違う。なまえと一緒に過ごし、雄英で色々なことを経験したことでほんの少しついた自信を胸に息を吸い込んだ。


「なまえが他の子に取られるだなんて思わなくなるように、頑張るよ」
「えー。あはは、頑張るって何を――」


すっと顔を近づけたことで固まったなまえの唇を奪う。ぱちり、と瞬いた瞳が羞恥に染まっていくのを視界に入れて天喰は熱い息を吐いた。


「……環はずっと、頑張ってるよ」
「うん」


口数が少なくなったなまえの唇を何度も塞ぎながらぎゅうと強く抱きしめる。腕から伝わる温かさに彼女への好きを再確認して、天喰は堪らず愛おしく名前を呼んだ。根拠なんてないが、天喰も今日なまえの夢が見られるような気がした。現実でも夢でも会えるだなんて、なんて幸せなのだろう。



窓越しになら触れるまぼろし



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