*成代主は八百万と轟が付き合ってると思ってる




あ、まただ。上鳴と話している最中ちらりと視線をやればヤオモモと轟のツーショット。しかもめちゃくちゃお似合い。思わずため息をつけば上鳴は自分の話でそういう態度を取ったと勘違いしたのか怒ってきた。違うって、聞いてなかったと言えばショックを受けて固まったからしばらく放っておこう。

席が隣同士だから二人のツーショットをよく見るのは当然だ。だけど実際二人は仲が良い。ヤオモモは満面の笑みだし、轟だって控えめだけどいつも笑っている。さすがにじっと見すぎていたのかヤオモモに気づかれて、あろうことか轟の肩を叩きウチを指差す。それによって轟もウチを見て、なんと微笑まれた。顔が熱くなったのを隠すために机に伏せる。理由はわからなかっただろうに、面白がって頭をつついてきた上鳴はイヤホンジャックの刑に処した。手加減はしたし、すぐに復活していたので反省はしていない。


「お」
「あっ」


という朝の出来事から時間が経ち、昼休みとなった。話のネタになると思って豆腐ジュースなんていうパックジュースを飲んでいると轟とばったり出くわした。動揺を悟られないように「轟じゃん」と右手を左右に振って笑顔を向ける。うん、普通に接することができている。


「轟お昼食べたの?」
「ああ……なまえは食ったのか」
「食べたよ。あっそーだ。みて轟、豆腐ジュースとか面白くない?」


せっかく話せているのだから、会話を途切れさせたくない。さっそく話のネタを使い切ってしまったがまあいいだろう、轟に一番に話せたことだし。どんな反応が返ってくるだろうと内心ワクワクしていると轟は無表情で爆弾を落としてきた。


「それ、八百万が前に興味津々な顔で飲んでたやつだな」
「……へ、へえ」


無数の針で心臓を刺されたかのような痛みが襲った。やっぱり轟とヤオモモはカレカノで間違いないんだろうな。轟の口からヤオモモの名前が出たのがショックすぎて返事がどもってしまった。ウチのテンションが突然下がったのを不審に思ったのか轟は首を傾げる。「早く教室戻ろっ」と明るい声を出して視線を外した。――それでも好きでい続けるくらい、いいよね。歩きながらウチだけが知っている想いをそっと胸の奥にしまい込んだ。







「なまえさん、本当に大丈夫なんですの?」
「平気だって。リカバリーガールの治癒のおかげでこの通り。ねっ?」
「……そう、みたいですわね。よかったですわ」


ヒーロー基礎学の授業でヘマをやってしまった。足の怪我により保健室行きを余儀なくされたウチだったが、授業終わりヤオモモが顔を見にきてくれた。ウチが心配だったそうだ、ありがたいことこの上ない。元気だよと握りこぶしをつくればヤオモモはようやくほっとした表情を見せてくれた。教室に帰ろうと立ち上がれば既に痛みもない。安心してヤオモモと保健室から出ればドアの近くに轟が壁に背中を預けて立っていた。びっくりしすぎて変な声出たわ。


「と、轟? 何してんの?」
「なまえが、心配で」
「っえ?」
「……あっ、そうですわ。轟さん、私の代わりになまえさんを教室まで送り届けてください」
「!?」


轟がウチを心配してくれただけで驚いたのに、ヤオモモの発言で言葉を失ってしまった。大事な彼氏とウチ、一緒に戻ってもいいの? ヤオモモも行く場所は教室だというのに、轟の返事を待つことなく笑顔で歩いていってしまった。と、とりあえず話!


「っえと、心配ありがとね」
「いや……もう大丈夫なのか?」
「うん。超元気だよ」
「そうか」


ほ、微笑まれたっ!? ヤオモモのときと同じようによかったと呟かれて嬉しさで頭がどうにかなってしまいそうだ。ウチの歩幅に合わせて歩いてくれるところに優しさを感じる。会話がなかったため、気まずいと思っているのはウチだけだろうが適当に話しかけてみることにした。


「ごめんね轟」
「なにがだ?」
「ヤオモモのこと……二人で戻りたかったでしょ」
「……?」
「ん? あれ、そうでもなかったのか」


まあよく考えてみれば教室で会えるし。離れてても心は通じあってるってやつか。なぜウチと轟を置いて先に教室に戻ってしまったのかは謎だが、轟といれるのだからヤオモモには感謝しなきゃ。


「なまえ」
「なーに」
「今日一緒に帰らねえか」
「いー……よ!?」


待って、もしかしてウチ今日死ぬの?







今日ほど時間が過ぎるのが遅く感じたことはない。下校時間となり大人しく自分の席に座ること五分。轟に名前を呼ばれ、ロボットのようにぎこちない動きで振り向くとやはり帰ろうと言われる。ウチの聞き間違いではなかったようだ。こくこく頷いて荷物を持ち轟の後ろを黙ってついていく。


「なまえ」
「え。な、なに?」
「好きな奴いるのか」
「はっ」


なんだこれ、まさかの恋バナ? わ、わからない……それとも心理テストか何かか……? 戸惑った顔をしているのを見て轟は言葉を続ける。


「……八百万に」
「へっヤオモモ……?」
「八百万に、なまえ本人に直接いるか聞いて来いって言われてな」


……ん!? ヤオモモ、もしかしてウチが轟を好きだって知ってる!? 知ってて轟に聞かせてる!? でもヤオモモはそんなことするような子ではないことを知っている。ヤオモモは言わない限り恋愛に関しては気づかないはずだし、多分気づいても気づかないフリをしてくれるはずだ。じゃあ、どうして……。


「どんな経緯でそんな話したの……」
「俺が好きな奴いるのか気になるって言ったらそんな話になった」
「……えっなんで轟がウチの好きな人気になってるの? 轟彼女いるじゃん」
「? いねえ」
「……ん?」
「だから、いねえぞ。彼女」
「……ん!?」


今日一日全部夢なのではないかとさえ思い始めた。ウチは驚いて立ち止まり大声で轟に迫る。


「ヤオモモ彼女じゃないの!?」
「ちげえ」
「なんで!」
「……なまえ勘違いしてんぞ。俺と八百万は別にそんな関係じゃねえ」
「……えええ……」


な、なんだそりゃ。じゃあウチは轟が好きだという想いを胸の奥にしまい込まなくてもいいわけだ。……でも、あれ。ウチの好きな人が気になるって……。


「好きな人……いるって言ったらどうするの」
「……その好きな人が、俺であったらと思う」


ウチは顔が、轟は耳がそれぞれ赤く染まる。手の甲を思い切り抓っても痛いだけでこれが現実なのも理解した。ウチらが好き同士だったという事実により付き合うことになったことはその日のうちにクラスメイト全員に知れ渡ったのだった。








「私との会話はほとんどがなまえさん関連であり、なまえさんのことを話していたから轟さんが笑顔だったということは言いましたの?」
「いや……」
「なまえさんを泣かせたら許しませんわ。大切なお友達ですもの」
「――わかってる」



どこにもない心臓のゆき先



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