「男子揃って何してるの? やっぱりえろい話?」
「なまえ……自分が女子だってこと少しは自覚したほうがいいぜ、ほんと」
「私ちっちゃいからよくわかんない」


ハイツアライアンス一階の共同スペースで集まっていたA組の男子たち。単純に何を話しているのか気になったなまえは、切島の呆れた返事を聞きながらソファの近くに立っていた障子の肩に乗った。彼は自分が近づくといつも肩に乗せてくれるから好きだ。甘え癖がついてしまいそうなので時々は断っているけれど、背が高くなった気分が味わえるので結構な頻度で乗せてもらっている。

飯田が皆に代わって今日の授業について話し合っていたところだと教えてくれた。真面目だなあと感心していれば、船を漕ぐ上鳴と切島に肩を組まれイライラした様子の爆豪に自分から参加しただけではない者もいるのだと苦笑する。


「爆豪顔怖すぎでしょ」
「うるせえぞチビ」
「怖いー! 上鳴起きて、爆豪がいじめる!」
「あんまなまえいじめんなよ爆豪」
「起きるの早ぇわ気持ち悪い」


どこから出したのかはわからないが、青山から目の前に差し出されたチーズを受け取り礼を伝えた。彼がくれるチーズはいつも美味しいので差し出されたらもらうことにしている。


「なまえも共に振り返るか?」
「えー授業について? うーん今日はパスで。正直今いい感じに眠いから勉強の話したら頭冴えて眠れなくなりそう」
「こ、子守唄なら歌えるかも」
「大丈夫だよ口田。遠慮しておくね」


あわあわと優しく語りかけてくれる口田は癒しだ。だが言ってやりたい。背は低くても女子高生だぞ、と。子守唄を歌ってもらうような年齢でないのは間違いない。


「眠いなら寝たほうがいいんじゃ……ごめんね話しこんじゃって」
「緑谷優しすぎか……私から話しかけたんだから気にしないで」
「なまえ、眠いなら添い寝してくれるってよ。尾白が」
「俺が!?」


瀬呂のからかいに尾白が顔を赤くして手をぶんぶんと左右に振る。瀬呂の言葉を本気にしたのはぱちりと瞬きをした轟で、悩む素振りを見せたかと思えば尾白の名を呼んだ。


「いくらなまえが小さいからって、さすがに添い寝はダメじゃねえか」
「イケメンでも言っていいことと悪いことがあるってことよく覚えとけよ! たしかにちっちゃいけども!」
「なまえ落ちつけって……あとでシフォンケーキ焼いてやるから……」
「砂藤の作るケーキで誤魔化せるとでも!? めちゃくちゃ甘くして!」
「誤魔化せてる……」


緑谷からの突っ込みを無視して障子の肩からぴょんと飛び着地する。個性派揃いの彼らと話をするのは楽しいが、そろそろ本当に眠さが限界にきていた。「じゃあ私寝るねー」と一言かけて背中を向ければ、飯田の布団はちゃんとかけるんだぞ! なんて明らかに子ども扱いした言葉がかけられる。


「言っとくけど、私たち同い年だからね!!」


なまえは彼らが妹のような目線ではなく一人の女性として心配し声をかけていることを知らない。なまえに寄せる思いの形は人それぞれではあるが、彼女が好かれているのは明らかであった。今日も愛された少女は満面の笑みで部屋へと戻っていく。クラスの誰が先に彼女への思いを口にするのか。そんな話題でA組女子が盛り上がっていることも、もちろんなまえは知らなかった。



愛の水だけでは生きられない



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