「なまえちゃんっ……! ふっ普通科の男の子に告白されたってほんと!?」
「えっ!?」


準備のために手に持っていた教科書を動揺のあまり床に落としてしまい、慌てて拾い埃を払った。拳を握り締めてねえねえ! と迫る麗日はどこか焦っているようにも見える。嘘をついても仕方がないと思いこくりと頷いた。


「こここ断った!? もしかしてオッケー出した!?」
「断ったよ……? どうして知ってるの?」
「よかったぁ……」
「すみませんなまえさん……偶然現場を目撃してしまい、気が動転して皆さんに話してしまいまして」
「そ、それは平気だけど」


明らかにほっとした様子の麗日の隣で申し訳なさそうに俯く八百万がなまえの目に映る。話したことのない知らない生徒であったため断った告白を見られていたのか。なまえはクラスメイトの告白現場を話してしまっただけでやけに落ち込む八百万が不思議で首を傾げる。何をそんなに落ち込んでいるのだろう。それを素直に聞けば八百万はてのひらを上にしてすっと横に出した。そこにいるのは麗日と幼なじみの爆豪、そして最近交流の増えた轟がいる。


「三人がどうかしたの……?」
「私たちもなまえさんが大好きですが、この御三方はクラスの中でも頭がおかしいというか……」
「ヤオモモ辛辣っ!!」
「とにかくなまえちゃんが断ってくれてよかったわ。恋人はまだ早いんじゃないかしら」


目を逸らした八百万がぽつぽつ話していくと、頭がおかしい発言で芦戸が吹き出した。蛙吹も一度頷くとそう言いなまえに微笑みかける。結局何を言いたいかが伝わらずとりあえずうんと返事をすると、ずかずかと爆豪が目の前に近づき机を思い切り叩いた。


「おいこらなまえ! 知らねえ奴に声かけられてもついてくなって何百年言い続けりゃわかるんだテメーは!」
「ひい」
「あーもう爆豪くんすぐ大声出す! なまえちゃん大丈夫?」
「麗日さっ……」
「なまえ何百年も生きてたのか?」
「生きてないよ轟くん……!」


頭を撫でる麗日に戸惑ったり轟に突っ込んだりと忙しい。大きな舌打ちをかます爆豪に苦笑してごめんねと謝っておいた。しかし謝罪さえも癪に障ったのか爆豪のイライラは治まりそうにない。誰も宥めようとしない辺り皆爆豪に慣れてきている。


「はぁ……よかったわ。なまえに彼氏できたとか報告されたらウチ耐えられなかった……」
「だよなー。俺ちょっとびびったわ」
「こんだけセコムいるのによく告白したなぁ普通科男子」


耳郎と上鳴の横で峰田が呟く。唯一聞こえていた葉隠だけがうんうんと声を返した。そうは言っても峰田ら含むクラス全員人のことは言えないのだが。


「なまえ、今日の昼飯一緒に食わねえか?」
「話の脈略がねえんだよ! てか誘ってんじゃねえ !」
「ちょ、なまえちゃん困ってるやん! 轟くん聞かなくてもいつもなまえちゃんと一緒に食べてるし」
「みっ皆で食べたい! そうしよ!?」
「1-A勢揃いで食堂集まんのか」


切島は席は取れるだろうかと心配になったが真面目な飯田がいればおそらく大丈夫だろう。ここが空いている! と意気揚々に席を取る彼が目に浮かんだ。


「轟くんもかっちゃんも麗日さんも……いや?」
「俺は別に構わない」
「……ちっ。好きにしろよ」
「ええよええよ! 一緒に食べられるなら!」
「あっえと、皆って言ったけど、嫌ならいいからね!」


教室を見渡したなまえであったが誰一人として嫌という者はいなかった。なまえが嬉しそうに顔をほころばせればタイミングよくチャイムが鳴る。全員が席につき始め麗日もなまえに手を振り席に戻っていく。それに振り返していれば轟に楽しみにしてると優しい声で語りかけられた。そして背を向ける轟につい心の中でかっこいいと呟いてしまう。顔が整っている人は恐ろしい。


「? どうしたのかっちゃん」
「……なんでもねえよ」


たった数秒だったが、くしゃりと乱暴に髪を撫で回されて瞬きを繰り返す。そんなことやりそうにない人物からのアクションに顔が熱くなっていくのがわかる。そんななまえに満足そうに笑った爆豪は自分の席についた。やり逃げにも程がある。腕の中に顔を隠して必死に熱を冷まそうとした。それを見ていた峰田は先生が教室に入ってくるのと同時に声を荒げた。


「リア充かよ!?」


怒られたのは言うまでもない。



傷一つない心をあげる



戻る