*1万打企画「泡々のこの指とまれ」のつづき



つんつん、と誰かに肩を突かれた緑谷は不思議に思いながら振り向いた。そこにいたのはニヤニヤとした芦戸で「耳貸して」とこそこそしゃべってくる。何だろう、と思いつつ素直に耳を貸した緑谷に芦戸は気になっていることを尋ねた。


「ねえ、なまえとちゅーした? ちゅーしたの?」
「げほっごほ」


ずっと聞きたかったんだよねー! とわくわくする芦戸の目の前でむせてしまった緑谷は必死に息を整える。キスなんてなぜいきなりそんな話に。


「あ、芦戸さん。なんでそんなこと?」
「だからずっと聞きたかったんだって。で? どうなの、どうなの?」
「えええ」


近づいた顔に反射的に目の下を赤くさせた緑谷は半歩下がった。してないよと正直に伝えようとして、ぐいっと何かに腕を引っ張られたことに緑谷は目を見開く。顔を向ければどこかむっとしているなまえで、そこでようやく彼女の腕が自分の腕に絡められていることに気づいた。


「なまえ、ちゃん」
「……なんかいやだ」
「えっ?」
「ごめん……緑谷が私以外の女の子に顔赤くしてるの、すごく嫌だ」


声を詰まらせながら片手で目元を覆った緑谷に芦戸はこれキスまだだわと一人頷いた。まさかなまえが割り込んでくるとは思わなかったが、二人の微笑ましいところも見れたし良しとしよう。付き合っていることは知っていたがどこまで進んでいるのか純粋に気になっていただけの芦戸は、「ごちそうさまー」と片手を振って去っていった。取り残された二人は絡まれたままの腕をそのままに無言で見つめ合う。


「何を話してたの?」
「僕となまえちゃんのことをちょっと」
「ちょっと……?」
「あ、うー、結構がっつりかなあ」


密着しているという事実に今更恥ずかしくなりかああと頬が熱くなっていく。どうやらなまえは距離が近かった芦戸と自分に嫉妬してくれたらしい。嫉妬させてしまった申し訳なさと嬉しさで感情がぐちゃぐちゃだ。でも、そっか……キス。手を繋ぐだけで満足していた自分たちが、キスか。


「あの……」
「な、なに……?」
「キス、していいかな」


そしてまた勢いで聞いてしまったことに謝罪を口にしながら頭を下げた。前もその場のテンションで手を繋いでしまい謝ったことがあったというのに自分は本当に学習しない。しかしそんな緑谷が面白かったのか笑顔を見せてくれたなまえは絡めるのを腕から手へと移動させた。


「……聞かないで」


呟かれた言葉に緑谷となまえはまた一歩恋人として段階を進めた。もしかしたら勢いも悪くないのかもしれないなんて思いつつ緑谷はなまえを抱きしめる。好きだよと言えば赤く染まる耳に緑谷は満足した息を吐き出した。



一片に綴るひかり



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