ヒーロー基礎学の授業。ペアを組み、仮想敵を倒しながら救助者とみなした旗をいかに早く見つけられるかという演習が行われていた。ペアは今回くじ引きで決められるということだ。"個性"の相性関係なく、その場にいたヒーローと協力して敵を倒さねばならないときを想定してとのことらしい。オールマイトに促されなまえも手を伸ばしてくじを引く。紙には番号が書かれていて、その番号の者とペアを組むのだろう。なまえの番号は「3」と書かれている。きょろきょろ辺りを見回していると背後から不機嫌そうに声をかけられた。


「テメェのペアは俺だ」
「爆豪」


爆豪の手に握られているのは間違いなく自分と同じ「3」の数字の書かれた紙だった。一番から順に演習は進んでいき、早い番号だった二人も早々に呼ばれる。


「足引っ張んじゃねえぞ」
「頑張る」


スタート位置にてお互いに言葉を交わしたのはそれだけだ。始めの合図と共に走り出した二人は目の前の仮想敵を次々と倒していく。爆豪は敵を一体でも多く一掃する役割、なまえは攻撃は最小限に留め救助者である旗を探す役割。相談せずとも自然と役割を分ける二人の姿に緑谷たちクラスメイトは感嘆の声を漏らした。


「気持ちが通じ合ってるのかな。すごいね」
「爆豪の仮想敵倒してる姿だけ見たら通常運転にしか見えねえけどな」


上鳴の渋い顔に頷いたのは耳郎や切島である。同意見でしかなかった。


「――あったっ!」


なまえの目が見開かれ爆豪が視線の先を辿れば、仮想敵の先でポツンと置かれた旗が確かに存在している。爆豪が手のひらを前に突き出したのを横目になまえは敵の周りに氷を作った。敵を覆う大きな氷は爆豪の攻撃だけを受けるよう彼の前だけにはない。今回の演習は旗さえ手に入れれば勝利となっている。なまえは爆豪に攻撃を任せ自分は旗を手に取ろうと腕を伸ばした。


「っ、なまえ! 上だ!!」
「!?」


爆豪の叫びを耳にした瞬間なまえはすぐさま飛び退こうとした。しかし自分が退いてしまえば敵が落ちて来る先は眼前の旗の下だ。演習ではただの旗でも、本来ならばこれは救助者。ヒーローが助けるべき人である。


「爆豪――!」


なまえも先ほどの爆豪に負けないくらい叫んだ。彼ならば自分の叫んだ意味を理解してくれる。なまえにはそんな確信があった。決して顔を上へと向けずになまえは旗を掴む。そして、温かい感触に包まれた。


「この作戦が俺以外に通用すると思うなよ」
「うん。でも、私のやろうとしたことわかってくれた。ありがとう」
「わからねえわけがねえだろ。ナメんな」


思わず笑みがこぼれたなまえは爆豪に抱きかかえられたまま旗を大きく上げた。なまえと爆豪の勝利だ。







「私絶対なまえたち負けたと思った!」


興奮した様子の芦戸がすごかったねぇと二人に詰め寄った。彼女を筆頭にして他のクラスメイトたちも笑顔でこちらに近づいてくる。爆豪がうるせえと遠くへ行ってしまったため代わりになまえが答えることにした。


「勝ったよ」
「見てたから知ってるよー!」
「逃げねえからひやひやしたぜ」


葉隠と切島は顔を見合わせてうんうんと頷いている。

あのとき、爆豪に爆破で走るより早く駆けつけてもらい旗を持ったなまえごと飛んでもらった。今回は敵全てを倒すことではなく、救助者を見つけ助けることがミッションだった。現実であんな場面に遭遇したとしてもなまえは同じ行動を取るだろう。自分の命を投げ出しているわけではない。単純な話だ。なまえは爆豪を信じている。


「爆豪には私の考えてること全部お見通しだから」


はにかんだなまえにクラスメイトは同じことを思う。今後ペアで戦うことになったとき、なまえと爆豪のチームに当たったらきっと勝てないだろうと。


たとえば泣きたくなるような幸福



戻る