「やあなまえちゃん。今日もかわいらしい髪型してるね」
「いつもと一緒です」
「あれそうだった? ごめんごめん」


爽やかに読めない笑顔でなまえの頭を撫でるのはNo.2ヒーローのホークスである。チームアップミッションでホークスの元へと来ていたなまえは最近彼からのスキンシップが多いことに悩んでいた。エンデヴァーの娘という理由からかと思っていたがどうにも違うらしいのだ。ただ撫でたり触れたりするだけなら悩んだりしないのだが、ホークスはすっと顔を近づけるとなまえを困らせることを堂々とやってのける。


「なまえちゃんはいつもかわいいもんね。今日とか明日とか関係ないか」
「……ホークス、緑谷が言うにはこれはセクハラらしいですが」
「ほんとに? 訴えられたら俺終わるなぁ」


昨日緑谷に電話で相談して言われたことを伝えれば、わざとらしく口元だけに笑みを浮かべたホークスの手がパッと離された。――どうやらホークスはなまえが好きらしい。この事務所に来てから彼に幾度となく聞かされていることだ。「エンデヴァーさんは関係ないよ」と言っていた彼の言葉を信じるならば、単純になまえをからかって楽しんでいるだけだろう。ホークスからは本気が伝わらないしきっとそうだ。なまえはじとりとした目を向けながら片手でそっと乱れた髪を直した。


「俺結構優良物件だと思うんだけど何がダメなの?」
「優良物件……ホークスは人間でしょう」
「あーそうくる? 不意打ちの天然発言はドキドキするからやめてね」
「……?」


突如くるりと背を向けたホークスに意味のわかっていないなまえは首を傾げるしかない。しばらくして落ちついたのか口元を手で押さえたホークスがなまえに向き直る。


「ねえ。なまえちゃんから見て俺の好感度どんな感じ?」
「え……」
「ゲージがこれくらいだったら?」
「このへんです」
「低っ」


ホークスが右手を顔の位置、左手を胸の位置に上げゲージとやらを作ったために即座に左手すれすれを指差したなまえ。信じたくないと言いたげに目を細めるホークスに忖度して少しだけ指の位置を上げたがそれでも低かったらしい。ため息をついて顔を覆ったホークスは珍しく意気消沈していた。


「ンー、と。俺もしかして嫌われてる?」
「嫌い……ではないですけど、いい加減好きって言うのやめてください……」
「は」
「大人にからかわれていい気分にはならない、です」


無意識に撫でられた頭に手を置いたなまえは無表情だった顔を歪めた。あれ、どうして今からかいで好きと言われることが嫌だなんて思ったのだろう。気持ちが追いつかず息を吐き出せば突然掴まれた腕になまえは肩を跳ねさせた。見上げればあと数センチの距離にいたホークスになぜか顔が熱くなる。


「告白を断るならまだしも、俺の想いは否定しないでよなまえちゃん」
「ほ、ホークス」
「好きだよ」


近距離で囁かれた甘い言葉がなまえの思考能力をどろりと溶かす。普段からこのように伝えてくれれば変な勘違いもしなかったのに。頭の隅では文句を垂れつつも気づけばこくりと頷いていた。瞳孔の開いた獲物を狙う目をなまえへと向けたホークスは満足そうににこりと微笑んだ。



ゆきずりの比翼



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