*百合



「なまえちゃん。きれいね」
「うん……! ハロウィンのイベントってこんな豪華になってたんだねっ」


なまえの目が輝くのを蛙吹はにこやかに見守り、喜んでくれたことにほっと息を吐く。ハロウィン当日、なまえと蛙吹はハロウィン仕様のイルミネーションやグッズが見られるショッピングモールへ来ていた。友達という言葉を使いなまえを誘って一緒に来たはいいものの、蛙吹は素直に楽しむことはできなかった。


「あ、かぼちゃのランタンがある。かわいいー」


なまえが好きだ。友達だと思っていたのに、いつからかその関係性で満足できなくなってしまっている自分に気づいた。いくら思ったことをなんでも言ってしまう蛙吹と言えど、さすがに同性に恋愛の意味での好きを伝えるには心の準備が必要だ。言わないという選択肢はそもそも存在していなかったが、いつ言おうかとずっと迷っていた。素直に楽しめていない理由はそれである。


「梅雨ちゃん……? ご、ごめん! 一人ではしゃいじゃった!」
「! ごめんなさい、なまえちゃんは何も悪くないわ」


蛙吹が黙っていたのを自分が騒いでいたせいだと勘違いしたなまえに頭を振る。なまえの笑顔が好きなのに、自分のせいで笑顔が減ってしまっては意味がない。


「本当? それならいいんだけど……梅雨ちゃんぼーっとしてるから気になっちゃって」
「ちょっと考え事をしていたせいよ。なまえちゃんと一緒にいられて嬉しいから、そこは勘違いしないでちょうだいね」
「え、へへ」


私も梅雨ちゃんと一緒にいられて嬉しい、とはにかんだなまえが突然手を繋いできたものだからケロっと蛙吹は肩を跳ねさせた。幸い気づかれなかったようでなまえはにこにことしたまま前後に繋いだ手を振っている。なまえにとっては何気ない行動も蛙吹にとっては心臓が壊れそうなくらいどきどきとうるさかった。微笑みながらおばけのストラップを楽しそうに眺めるなまえの横顔を見て、蛙吹は気持ちが溢れる。


「ねえなまえちゃん」
「うん?」
「好き」
「私も梅雨ちゃん大好き!」


特に落ち込むこともなく蛙吹は繋いで手を一度離して、そっと指を絡めた。驚きながら見つめてくるなまえの目と自分の目を合わせて、蛙吹は指先に力を込める。


「好きよ。なまえちゃん。なまえちゃんが好き」
「……っえ、あ」


眼前には真っ赤ななまえがいて、蛙吹は気持ちが伝わったことに口元が緩む。思わずケロケロと出た声はやけに弾んでいて、浮かれているのがばれてしまいそうだ。


「返事を聞かせてほしいわ。だめかしら?」


突然の告白だったというのに、なまえの口から冗談でしょ? などという言葉は一つとして出てこない。外ということもあり小声で顔を近づけ首を傾げればなまえが火傷しそうなくらい熱くなった。いい返事を期待して蛙吹は答えを待つ。おそらく明日には二人でいつもより近い距離で笑いあっているはずだ。蛙吹はそんな確信と共になまえの表情を目に焼き付ける。そばにちょこんと置かれたかぼちゃのランタンの細められた目が、じっと二人を凝視していた。



真昼にひかれるきみが星



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