*1万打企画「夜に滲むはあなたのまぼろし」のつづき



「いい加減私が好きだと認めてもいいだろう、なまえ」
「捕まれロリコン」


前にも同じやり取りをしたなだなんて思い出しながら、なまえは我が物顔でソファで寛いでいた。なまえの暴言を気にする様子もなくふっと笑ったベストジーニストはコーヒーを淹れている。


「いつまでたっても君は態度が変わらないな。そこも愛しいよ」
「鳥肌立つわやめろ」
「やめてほしいなら認めてしまえ」
「しつこすぎでしょ。暇なの?」


なまえの隣に座ったベストジーニストが優雅にコーヒーを啜った。そんなところも絵になってしまうのが腹立つがわざわざ口にするのも面倒だ。自分の分として置かれていた紅茶を冷まして飲みながらほうっと息をついた。悔しいがこの男の淹れる飲み物はどれも美味しいのだ。


「もちろん卒業までは待つつもりだ。それでも好きだと思いを伝えるのは私の自由だろ?」
「勝手にすればいいけど、わざわざ私も好きか確認すんなって言ってるの。認めろ認めろうざったい」
「わかっているとはいえ君の口から好きだと言われたことはないからな。聞きたいんだ」


コーヒーが半分ほどなくなったカップをことりとテーブルに置き笑いかけるベストジーニストは楽しそうだ。言葉が聞きたいなんて本当に面倒な男である。なまえが言葉で伝えるのが苦手だということをわかっての発言なのだから質が悪い。


「嫌なプロヒーロー」
「そんな嫌なプロヒーローを選んでくれて私は嬉しいよ。もう一杯いるか?」
「……いる」
「ちょっと待ってろ」


なまえの空のカップを手に取り再度紅茶を淹れにいってくれるベストジーニストをちらりと盗み見た。彼の言う通り言葉にこそしないがベストジーニストを好きになってしまっているなまえは、別に愛の言葉も認めろという言葉も嫌なわけじゃない。だけどこの生意気で思っていることと真逆のことを言ってしまう口は今更素直になんてなってくれないし、なまえだってそろそろ返事をしなければと思っている。なまえの表情から好きだと察してくれてはいるみたいだが、彼が言葉を求めているのならたまには素直にならなくちゃと考えているのだ。


「? なんだなまえ。私の顔に何かついているか」
「……むかつく目と鼻と口」
「人間ならば必ずついているものだから仕方がないな」


差し出された紅茶を受け取って、湯気を眺めながら口元に力を入れた。覚悟を決めて素直になれるなら前からそうしている。しかしベストジーニストの洞察力はさすがなもので、なまえの気持ちをわかっているとでも言いたげに「大丈夫だ」と微笑んだ。


「なにそれ」


大人の余裕を見せつけられたみたいで少し苛々してわざとそっぽを向いた。これくらいの子どもじみた行為は許してほしい。卒業までにはもう少しだけ素直になれるよう頑張るから。

好きのたった二文字を口にできるよう努力しようと、ベストジーニストの笑みを見つめながら思った。


可もなく不可もなく毒もなく



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