*ちょっと背後注意



「飲みたいのか?」
「……いらない」
「だろうな」


継ぎ接ぎだらけの顔の男は鼻で笑うと黒霧に作らせ持っていたカクテル全てを飲み干した。お酒という時点でなまえが飲めないことなど承知の上だ。からかうことが目的だったに違いない。――目的といえば、自分だけをここに閉じ込めた目的も理解できなかった。


「何が目的なの……」
「そうだなぁ……お前がほしいって言えばいいのか? 轟なまえ」
「っ!」


グラスを放り投げたためか遠くで割れた音が響いた。前触れもなく荼毘の手が服の中に入り込み息を呑む。手を後ろで拘束されているため退けることができずされるがままだ。蹴ってしまおうと足を上げれば阻止されるように関節に相手の膝が乗り身動きが取れなくなる。"個性"を使えばいいことなどわかっている。だが使えない。どんな原理かは知らないが拘束具に仕掛けがあるらしく使った"個性"が自分に返ってくると荼毘は言っていた。完全に信じているわけではないが控えめに"個性"を使ってバレるよりもここぞとときに大きなものを使ったほうが逃げられる可能性も高くなる。本当に自分に返ってきたときは仕方がない。そのときはそのときだ。


「ぁ……や、め」


お腹の上で手を這われる感覚が伝わりぞくぞくと体が震えた。歯を食いしばるが気休めにしかならない。荼毘はそんななまえを見てただ笑うだけだ。


「はっ、なまえ……そんな顔して誘ってんのか」
「名前を、呼ぶな……っひ」


這っていた手が背中に回ったと思えば胸の締め付けがなくなりさすがに焦った。無意識に右の"個性"を使ってしまったのか自分の腕が凍る。あーあと荼毘は青い炎でなまえの氷を溶かしていく。


「だから言っただろ。なまえのためだけに死ぬ前に作らせたもので本物だ」
「死ぬ、前……」
「ああ……こういうのが作れる奴なら誰でもよかった」


自分のせいで見知らぬ誰かが犠牲になったとでも言うのだろうか。連れ去られて拘束されて人が死んだと言われて。頭がおかしくなりそうなことが立て続けに起こり唇を噛む。緑谷、 麗日、爆豪、蛙吹、飯田……クラスメイトの顔が次々に思い浮かんだ。姉や兄、そして父エンデヴァーまでもが脳裏をよぎる。


「私を殺すの……?」
「ここまでされておいて、わかんないはねえだろ」


肩を押されて仰向けにベッドに倒れた。顔を青くさせるなまえだが荼毘は手を止めない。


「怯えた表情……やる気出るな、色々と」
「な、んで、こんな……」
「……ずっとこうしたかった。――ずっと」


もう何も言うなと言いたげに口を手で塞がれ、首筋に舌の感触が襲う。太ももに指が置かれこれからされるであろうことに眉をひそめた。目的なんてどうでもよくなってしまう。どうしたらこの状況を打開できるか必死に考えた。その間にも服が剥ぎ取られていき頭に靄がかかり始める。


「なまえ」


少しずつ何も考えられなくなり、手が離された口から零れるのが嬌声に変わっていく。――やはり荼毘は笑っていた。



夢覚めやらぬ世迷言



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