「好きだ」
「寝言は寝て死ね」


初めての告白はお互いにとってある意味記憶に残るものとなった。轟は真剣に告白したのだが、なまえはどうやらからかいだと捉えたらしい。そこで轟は普段の行動から見つめ直そうと考えた。確かに今までそんな素振りを見せなかったというのにいきなり言われては戸惑うだろう、と。


「わかった。じゃあ、寝てやり直す」


そういう意味じゃない! と怒鳴る声が聞こえた気がしたが轟は諦めることをしなかった。断られたことを忘れたかのように毎日飽きずに告白を続ける。更には本当に好きなのだと伝わるようにするためか暇さえあれば近づいてくるようになった。はじめこそ無視していたもののさすがに鬱陶しくなり「うざい!」と話しかければ嬉しそうに謝ってくるものだから堪らない。なまえは毎回言葉を詰まらせて去っていくのが定番となってしまっていた。


「なまえ」
「っああ、もう! しつこい、半分野郎!」


触れられそうになった轟の手をはねのけてなまえは大声を上げる。しかし轟は首を傾げるばかりでなまえの言葉の意味を理解していないようだ。


「だからしつこい! 好きじゃないし付き合わないって言ってるのになんで毎日言ってくるの!?」
「なんで、って……」
「普通諦めるから! 振り続ける私なんか構うより他の女見つけたら?」
「いや。俺はなまえ以外考えられねえ」
「っ」


強靭な精神は良いことだがこんなところで発揮しないでほしいし、意味もなく口説かないでほしい。どうしてここまでなまえにこだわるのかがわからなかった。


「俺本当になまえが好きだ」
「だ、だから」
「なまえに嫌いって言われるまでは続けるつもりでいる」


そこでなまえは自分が嫌だとか嫌いだとかの言葉を言っていないことに気づく。いつもなら回転の速い頭も使いものになりそうにはなくてなまえは目を逸らした。これ以上踏み込んではいけないとわかりつつもなまえは轟へ問う。


「なんでそんな、私が好きなわけ」
「好きでい続けるのに理由なんていらねえだろ」
「は……?」
「なまえだから好きだ。……それじゃだめか」


反射的にダメに決まっていると返したはいいが、文句が一つも出てこない。なまえはあり得ないと頭を抱えそうになる。だって、これではまるで轟を――。そこまで考えてなまえは勢いよく轟を見上げた。相変わらずの無表情だがなまえと目が合い目を細めてくるのは反則だ。


「なまえ」
「ちょ、っと」


ダメ押しなのか知らないが手を引かれて距離が近づいた。そのせいで自分の表情も心音も轟に筒抜けだ。素直に頷いてやるのも癪だったためになまえはねえと声をかける。


「改めて、ちゃんと言って」
「……ああ」


なまえが好きだ、と聞き飽きた台詞を愛おしそうに発する。なまえはわざとらしくため息をつくとにやりと笑った。


「私の心、奪えるなら奪ってみて」


これが今のなまえにできる精いっぱいの返事であったが、轟には通じたようできゅっと手の力が強くなる。付き合い始めというのはもう少し甘いものだろうが、二人にはこれくらいがちょうど良いのかもしれない。


「ああ。頑張る」


頑張ってなまえに好きと言わせよう。ひとまずはそれが付き合ってからの目標である。



永久凍土の火の海



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