「おまえさぁ、ほんと、どうしたら信じてくれるわけ?」
「う、ぁっ、ぅ」


"個性"封じの拘束具、口の中に入れられる死柄木の指。噛み千切ってやりたいがそんなことをしたら腕が一本ほど持っていかれる。確信しているからこそ噛み千切れないし、抵抗もできない。この拘束具さえなければ今ごろこんな奴押し退けて、隙を見つけて逃げているのに。

ふぅふぅと息を荒げるなまえを見て不機嫌な表情から一転笑みを浮かべた死柄木はゆっくりと口の中から指を離した。指の腹と舌から繋がっていた銀色の糸がぷつんと切れ、なまえは勢いよく咳き込んだ。拭いたいのに手が動かせない。眉をひそめながらクソ、と呟けば両頬を掴まれ無理やり上を向かされる。睨みつけても一向に歪まない笑みになまえはせめてもの抗いとして目を瞑った。


「瞑るなよ。なあ、それでどうやったら信じる?」
「……私が好きなんて、なんで信じてもらえると思ったの」


うっすらと開けた目に映るのは頭のおかしい敵連合のリーダーである男だ。突然攫って監禁する男の「好きだ」という言葉なんて信じられるか。好きならば何でもしていいと思っている男は恋愛対象外だ。当然である。


「いいだろ別に。手っ取り早いのはなんだろうなぁ……やっぱりこの舌か?」
「んぐっ」


ぐっ、と死柄木に再度つままれた舌になまえは冷や汗を流した。死柄木から目を逸らすことができない。その目には次答えを間違ったら一生言葉を話すことができなくなるぞ、という脅しが含まれていた。


「おまえも頭は悪くないはずだ……信じてくれるよな、なまえ」


数秒の間を置いて頷いたなまえの顎を伝った涎が床に垂れる。顔を近づけた死柄木が伝う涎を舐め取るように舌を這わせ、なまえの体が大げさなくらいにびくりと揺れた。


「冗談に決まってるだろ。なまえがしゃべれなくなったらつまらないしな」


嘘をつけ、頭を振っていれば自分の舌は今ごろ崩壊されていた。自由になった舌に安堵するべきか、自分の頬を這う死柄木の舌に嫌悪感を示せばいいのか。とにかく今は顔を背けることしかできなくてなまえは滲んだ涙に気づかないふりをした。


「時間はたっぷりある……これから俺のそばでゆっくりと好きになってくれたらいい」
「っ……だれが」
「誰がおまえなんかを好きになるかって? いいねぇ勝気ななまえも嫌いじゃないよ」


今すぐに拍手でもし出しそうな雰囲気の死柄木に逃げられないという気持ちが一層強くなる。


「素直になる日はいつだろうな、なまえ」


死柄木の袖で濡れた顎を拭われ、なまえの潤んだ瞳に唇を寄せた。助けてくれの声は誰にも届かない。



細胞ひとつ抱き合っていられない



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