*短編「星も欠ければ毒になる」→短編「ここでは息しかできないみたい」→1万打企画「夢と夢と夢から覚めた夢」のつづき
*百合



「あはぁ、こういうときなんて言うんでしたっけ」


トガは頬に人差し指を当てながら機嫌よくクスクスと小さく笑みをこぼした。目の前には絶望した表情をする者、悔しそうに見つめてくる者、今にも自分を殺さんばかりに睨みあげてくる者など様々だ。彼らの視線の先にいるのはトガだけじゃない。


「あっ思い出しちゃった。こういうときざまーみろって言うんだよね、なまえちゃん」


ね? と首を傾げて隣にいるなまえをのぞき込めば返ってきたのは困ったような表情だった。クラスメイトたちになまえを奪われてしまったのは残念だったが、こうして帰ってきてくれたことにトガは歓喜する。


「なまえちゃんがいない間寂しくて仕方がなかったんですけど私すごーく我慢しました!」
「ごめんね」
「うーんかわいいから許します」


どうして、なんで、とざわつくなまえのクラスメイトらがうるさくてトガは耳を塞ぐ。なまえの声だけを聞いていたい、なまえの温度だけを感じていたい。


「なまえちゃんは私のものなので、もう来ないでくださいね」
「行こう、ヒミコちゃん」
「はーいっ」


なまえに呼ばれたトガは元気に返事をすると彼女の腕に自分の腕を絡みつけた。なまえは自分だけのものだとアピールするかのように密着したトガに、彼らの視線は一気に殺気を帯びる。その殺気が心地よくてトガは彼らのほうへとにんまりとした笑顔で振り向いてあげた。


「ざまぁみろ。私のなまえちゃんを許可なしに奪った天罰だよ」


最後に見た彼らの顔は確かに歪んでいて、トガはその光景を生涯忘れることはないのだろうとなまえに抱きつきながらべっと舌を出す。


「ねえなまえちゃん、私のこと好きですか?」


まだ希望を信じている者が数人いるのがわかったので、トガは去り際に大声でなまえへ尋ねた。はじめてなまえを連れ去ったときは微塵も自分を見てくれなかったのにな。目を合わせてくれたなまえの満面の笑みにトガの瞳がきらきらと輝く。


「大好きだよ。ずっと一緒にいようね」


以前自分が言ったことを覚えていてくれたらしい。ずっと一緒。そんなの当たり前だ。今後なまえが嫌と言っても二度と離れたりしない。


「私も! だぁいすきです!」


今も、もちろんこれからも。トガとなまえの愛を引き裂ける者など、この先絶対現れたりなんてしない。



昼夜の淡いに欠けてゆく花



戻る