なまえは爆豪の真剣な横顔が好きだ。例えば本を読んでいるとき。例えば大切なことを紙に書き記すとき。例えば人を救おうとしているとき。ちらりと盗み見たときのそんな顔が特に好きだった。


「見すぎだ。バカが」
「わっ」


だがとうとう見ていたことがばれてしまったらしい。額を中指で強めに弾かれて口から変な声が出てしまった。両手で額を押さえながら爆豪を「ううー」と唸り睨んでも鼻で笑われてしまう。いつも大丈夫だったために今回も気づかれないと思っていた。


「い、痛いよかっちゃん」
「いい加減にしろ。毎回穴があきそうなくらいじろじろ見てきやがって」
「ええ!? 知ってたの……!」
「あれだけ見つめてなんでバレねえと思ったんだよ」


まさか知られていたとは。衝撃すぎる新事実に恥ずかしい、と爆豪から目を逸らして額を押さえていた手を頬に移動させた。呆れたような視線を向け続けていた爆豪は大げさにため息をつくとグイッとなまえの腕を引っ張る。目を白黒させるなまえを後ろから抱きしめてくる爆豪にとうとう悲鳴が上がった。


「かっちゃん……! どうして私は抱きしめられてるの!?」
「うるせえ。言いたいことあるから見てたんじゃねえのかよ。聞いてやるよ、今ここで」
「ひえ」


首元にかかる息がくすぐったい。なまえはぎゅうっと目を瞑り、言いたいことはないんだけどと言葉を紡いだ。


「かっちゃんの……」
「……俺の?」
「その、横顔が好きで……真剣な表情見てると、やっぱりかっこいいんだなあって……わ、忘れてほしいなあ」


全て言い終えて羞恥が限界に達したなまえは腕で顔を隠した。しかし爆豪の反応がないことを不思議に思いなまえが見上げようと顔を動かすと、突然ガシッと頭を掴まれる。結構容赦がない掴みだった。


「え! 痛い! かっちゃん!?」
「あー、くそ……なまえのくせに」
「ちょ、かっちゃん……! な、に」


爆豪は見つめていたことがそんな理由だとは思わなかったのだろう。思わず照れてしまった顔を隠すのに必死だ。しばらくこちらを見ないようなまえの頭を押さえていたが何とか落ちついた爆豪は目の前にある首に吸いついた。


「あ……っん、今のかっちゃんちょっと変だよ……」
「はあ? 煽った責任くらい取れや」
「多分それ勘違いだと思う……!」
「いいからもう黙ってろ」
「ひゃ」


もう……と頬を膨らませるなまえだが満更でもなさそうなので爆豪も気にせず続ける。


「で? 好きなのは俺の横顔だけか?」
「っ……全部、好きです」


知ってる。呟いた爆豪となまえの唇同士がくっついて言葉を発するどころか息をすることさえも難しくなった。特に好きなところを言っただけで、なまえは爆豪の全てが好きなのだ。それに嘘は一切ない。爆豪もあまり言葉にはしないが好きだと思ってくれているだろう。


「かっちゃん……好きだよ、好き」


唇が離れたときにそう伝えれば爆豪は余裕がなさそうに口角を上げる。また一つ好きな表情が増えたなあと思いながらなまえは爆豪の温度を感じた。



ぬるい災いに溺れないように



戻る