*1万打企画「夜はお静かに」のつづき
*爆豪が生まれつき女(でも一人称は俺)
*百合



女子というものは面倒だと爆豪は思う。集団行動が好きなのかどこへ行くにもついていこうとするし、一人じゃ何もできないくせして陰口も一人前だ。陰湿なことしかしない。言いたいことがあるなら堂々と言えばいいと思っている爆豪にとって、この状況は許せなかった。


「楽しそうなことしてんなぁ」
「っ!」


空き教室で座り込むなまえを取り囲むように立つ女子数人をドアの前で見つめながら、瞬時に状況を察する。そういえば授業中教科書がないだの筆箱がないだのと言って授業中教師によく怒られていた。なるほど、こういうことかと。


「女子いじめ、皆ですれば怖くないって?」
「ば、爆豪さんには関係ないでしょ」
「は?」


自分でも驚くくらいの冷たく低い声を出せば女子たりはびくりと体を震わせて慌てて教室を出て行った。爆豪はため息を大きくついて呆然と座り込み見つめてくるなまえの元へ足を進める。なまえの目線に合うようしゃがみ込めばぐしゃぐしゃになった教科書を抱きかかえていた。よく見れば涙目で充血している。やれやれと爆豪は手を伸ばすとなまえの体が強張るのがわかるが気にしていられない。なまえの教科書を取り上げて表紙を確認すると、爆豪は持っていた自分の鞄を漁った。


「ぁ……かっちゃ、ん」
「っと、これか」


そして自分の使っていた教科書をなまえの目の前へ投げると爆豪はボロボロの教科書を鞄に突っ込んだ。きょとんとしていたなまえだったが慌てて綺麗な教科書を爆豪へ返そうとする。


「えっ、待ってかっちゃん! わ、私の教科書」
「これからあれが俺の教科書な。名前書きかえとけよ」
「ええ!? でも――」
「文句あんのか?」
「ひい」


爆破で脅せば口を閉ざしたなまえにポイと鞄を投げる。なまえはそれを自分の鞄だと気づいてゆっくりと立ち上がった。綺麗な爆豪の教科書を胸に抱きしめて「ありがとう……」とか細い声で伝える。爆豪はそれに舌打ちで返し、この話は終わりだとばかりになまえの手を引いた。


「なまえのせいで帰るの遅れただろーが。カス共より俺を優先しろ」
「ごめん……に、逃げられなくて」
「全力で走れや。大体お前はノロいんだよ」
「えええ」


なまえは"無個性"であり、大人しい見た目からいじめの標的となるのに時間はかからなかった。最初は小さなことから始まったことが少しずつエスカレートしていく。日々のストレスを吐き出すかのようになまえの心を壊そうとしてくる。爆豪は非常にイライラしていた。


「なまえを口汚く罵っていいのは俺だけなんだよ」


もちろん、物を壊すのだって。蚊の鳴くような声はなまえに届かず空気に混じって消えていった。それを独占欲と呼ぶということに気づかない爆豪は歳を重ねていく。「なまえには俺がいればいい」という考えはなまえのいじめからのものであった。







「なまえたちの距離感どうなってんの」
「え?」


上鳴に問いかけられたなまえが何のことだと首を傾げた。指を差した先には頬杖をつく爆豪がいて、上鳴の質問の意味がようやくわかる。


「かっちゃんとの距離感……普通じゃないかな?」
「普通は同性だとしても常時手なんか繋がねえし膝枕もしねえし、おでこにちゅーなんかしねえの!」
「え……!?」


高校に入ってから付き合い始めたなまえであったが、それは中学生のころもやっていたことだ。まさかそれに突っ込みを入れられるとは思わずなまえは動揺を隠せない。それを普通だと思っていたなまえに近くにいた麗日も苦笑した。やっぱり知らずにイチャイチャしていたのだなーと。


「まあまあ。なまえちゃんあまり気にしないほうがいいよー。いつも通り接していいと思う」
「う、うーん」
「それに今更爆豪ちゃんと距離を取ったりなんかしたら、爆豪ちゃんが寂しくて泣いちゃうわ」
「泣かねえわ!!」


すっと出てきた蛙吹の言葉に爆豪がすかさず怒号を入れてなまえの腕を引っ張った。わあと驚いた声を出したなまえも慣れたもので笑顔で彼女の手を握っている。本当に今更だ。自分たちを離そうだなんて誰が許しても爆豪が許さない。


「なまえ」
「なあに、かっちゃん」


なまえのそばにいるのも、爆豪だけで十分なのである。



良い子も悪い子もいなくなる



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