「返してもらいにきたぜ、クソ野郎」
「よくもまあ飽きずに来るなあ、ヒーローってのは」
爆豪の不敵な笑みを視界に入れた死柄木の口角も上がる。戦闘態勢に入る爆豪を一瞥した死柄木は、自分の後ろに隠れ不安そうに彼を見据えるなまえを見つめた。
「なまえにこんな顔させる時点で気づけよ、ヒーロー。おまえたちは求められてないんだって」
敵連合に単身で攻めてくるだなんて、自分が思っていたより爆豪はバカだったらしい。死柄木以外の連合の仲間がいないときを狙ったことだけは褒めてやってもいいが。負けるだなんて少しも考えていない表情は癇に障る。
「いいんだよ、求められてなくても」
爆豪の発言に反応した死柄木は興味なさそうにへえと呟いた。やけに落ちついた爆豪が手のひらで爆破を繰り出し、瞳孔の開いた瞳が死柄木を射抜く。
「俺はなまえを求めてる。気づけよ、雑魚ヴィラン」
「ただの一方通行か。笑えるなぁ」
鼻で笑うしかない答えに死柄木が一歩踏み出した。そのときだ。
「――なまえ!」
「!」
なまえとの距離ができた瞬間を狙ったかのように爆豪ではない男が手を伸ばしていた。なまえを連れて逃げようと思っているらしい人物は爆豪と同じクラスである轟だ。ああ、なるほど。死柄木は爆豪が大人しく余裕そうだった理由がわかり体の力を抜いた。仲間がいるからだ。仲間になまえを任せたからこその余裕だった。
「バカじゃなかったんだな、おまえ」
だが同時に爆豪を愚かだとも思った。
仲間がいるのはそっちだけじゃない。
「っ、鉄骨!?」
コロン、と何かが落ちたような音がした直後なまえと轟の間に現れたのは複数の鉄骨だった。死柄木が目を細め驚くなまえの肩を掴む。
「悪いねえー、なまえちゃんをそちらに渡すわけにはいかないんだ」
全く悪いと思っていない声色でシルクハットを意味もなく直すのはコンプレスだ。鉄骨を圧縮していた玉を投げ、轟の邪魔をしたのである。後退してしまった轟はチャンスを逃してしまい悔しそうに歯を食いしばった。
「わりぃ、爆豪!」
「ちっ……!」
なまえがいる手前彼女に当たってしまうことを考えると派手に攻撃をすることはできない。死柄木がなまえのそばを離れたあのときが絶好の機会だったというのに。轟は死柄木やコンプレスを睨みつけてからなまえへと視線を移す。
「かっちゃん……」
爆豪や轟に向かって悲しそうな顔をしている理由はなんだろう。自分たちが殺されてしまうからと思っているからか、戻らないのに無意味なことをしていると思っているからか。
「なまえ、テメェは絶対こっちに連れ戻す」
「……来ないで、かっちゃん」
今の返事を聞く限り、きっと両方だろう。轟は頭のどこか冷静な部分で判断して拳を握りしめた。なまえがどう思っていようとこれからも敵として生きさせるわけにはいかない。だからこそ爆豪も轟も敵陣に攻め込んだのだ。
「楽しそうなことしてますね!」
「見たことある顔が二つあるな」
「こいつら知ってるぜ! 知らねえよこんな奴らっ」
次々と集まる敵連合の仲間たちに死柄木はたった一つの指示を出した。
「なまえを守れ」
液状の太陽が継がれてゆく
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