「あ」
「あ……なまえさん」


出久くん! と弾んだ声で彼の名前を呼べばにこりと微笑まれて私もえへへと微笑み返した。まさかただ適当に歩いていただけなのに出久くんに会えるだなんて思わなかった。嬉しいなと思いながら「何か用事ですか?」と首を傾げる。どうやら出久くんも特に用事もなく外へ出ていたらしい。


「なんとなく外出したくて気晴らしにトレーニングがてら走ってたんだけど……なまえさんに会えるなら僕の行動は正解だったね」
「………」
「……どうかした?」
「いえ。出久くん好きだなあと思って」
「え!?」


顔を真っ赤にさせて慌てふためく出久くんを横目に私は必死に話題を探した。だってこのままさようならは寂しいではないか。うーんうーんと必死に話題を探して悩む私に気づいた出久くんが、私の好きな笑顔で素敵な提案をしてくれた。


「なまえさんさえよければまたトレーニングに付き合ってもらってもいい? もう少し走りたいんだ」
「何千キロでも付き合いますよっ」
「そ、それは僕が無理かもなぁ……」


苦笑する出久くんもかっこいい。以前海浜公園を走ったときよりもゆっくりのペースで出久くんの隣を制服のまま走る。お話しやすいように走ってくれているのだろうか。そうだとしたら優しくて更に好きになってしまいそうだ。


「なまえさんって制服しか持ってないの?」
「今は持ってないですね。ほしいとは常々思ってるんですけど」
「そっか……なまえさんは肌が白いから何色でも似合いそうだよね」
「具体的に聞きたいですよー。出久くんは何色が似合うと思いますか」
「僕!? えっと、そうだな……」


しばらく地面を蹴る音と二人の呼吸音だけが響き、その間出久くんは私に合う色を精一杯考えてくれる。出久くんの頭の中が私でいっぱいになっているという事実にニヤニヤが止まらなくて私は走りながら頬を押さえた。


「なまえさんは明るい色が似合うよ」
「明るい色?」
「うん。僕、なまえさんには明るい色の服を着て明るい笑顔でいてほしいなって思ってる」
「……出久くん」


誰かに明るい色が似合うと言われるのがこんなにも嬉しいだなんて思いもしなかった。ただでさえ緩んでいた頬はこのままだと落ちてしまうんじゃないかと焦るほどには変な顔になる。不思議そうに見つめてくる出久くんから目を逸らしてようやく発せた言葉は「ありがとう……ございます」というお礼だった。


「ごめん……気持ち悪かったかな」
「いえそんなことは……あの、出久くん」
「?」
「やっぱり今すぐ付き合いましょう」
「え!?」


ぼんっと顔を真っ赤に染める出久くんに少しだけ落ちつきを取り戻す。もしも今後また服を買う機会があったら試しにピンク色のワンピースを買ってみるのもいいのかもしれない。そうしたら一番に出久くんに見せよう。出久くんにそれを伝えると「楽しみにしてるね」と赤く染まった顔のままはにかんでくれた。


運命さえ意のままにする



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