部屋に戻って早々頭をチョップされた緑谷は目を白黒させて幼なじみである少女、なまえを見つめた。どうして自分の部屋になまえがいたのかわからないが、とりあえず。
「何か飲む?」
「せめて叩いた理由聞け!」
女の子なんだから言葉遣いには気をつけたほうがいいとあれほど言っているのにまだ直らない辺りなまえらしい。荷物を置きベッドに腰かけるとなまえも自分の隣に座ってくる。叩かれることに慣れてしまったという事実は伏せることにして、どうしたの? と首を傾げるとみるみる顔を赤くし始めたなまえが首を指差して吠えた。
「デク! 痕つけんなっていつも言ってるでしょ!!」
「……あー」
緑谷は顔を片手で覆いやってしまったというポーズを取った。昨日、日頃の疲れからか眠ってしまったなまえの首元にキスをしてあろうことか痕をつけてしまったことを思い出す。これは察するにヒーローコスチュームの着替えのときに女子に見つかってしまったのだろう。なまえ自身が痕がついているのを自覚していれば隠せただろうが、知らなければ隠すこともできない。
「なまえちゃん、ご、ごめんね……? 許して?」
「知らないくたばれ」
「ごめんってば……なまえちゃん」
肩を叩いて顔をこちらに向けてくれた瞬間唇を重ねれば、不機嫌な顔のまま俯かれる。安直ではあったが少しは許してくれただろうか。おそるおそる抱きしめても嫌がられないので大丈夫のようだ。よかった……と緑谷がほっとするとなまえの声が耳に届いた。
「ねえ……さっきのじゃ、足りないんだけど」
「っかわいい……」
思わず漏れてしまった本音によって汚物を見るような視線をいただいてしまったが気にならない。自分を求めてくれるなまえに応えるためならなんでもしようじゃないか。
「別につけるなとは言わないけど、ちゃんと言えっての」
「気をつけるね」
「……次はないから」
緑谷は知っている。なまえがどんなことでも最後には許してくれることを。自分と触れ合うことが好きなことを。こんな自分を愛してくれていることを、緑谷は全て知っているのだ。
「キスだけで……足りる?」
「……ばかじゃないの」
部屋の鍵は閉めてある。残るはなまえの返事のみだ。普段気の強いなまえの羞恥に染まる顔を見て緑谷は高揚する。この顔が見られるのは自分だけだと思うと喜びが抑えられない。このことを言えばなまえはまた怒鳴るなり叩くなりしてくるはずだから黙っていよう。
「デク……早く」
「うん」
ああ、好きだなあ。緑谷は自分によってベッドに押し倒されているなまえを眺めながら当たり前のことを思った。
おやすみなさいの祈り
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