「あーやっと来た! 遅いよ二人ともー!」
「けっ」
「ごめん麗日」
「まあ座りましょう。全員集まれてよかったわ」
「そうですわね。さっ、なまえさんも爆豪さんも座ってください」


個室内にいた蛙吹と八百万に手招きされなまえは一緒に来た爆豪と空いているところへ隣同士で腰かけた。――同窓会の提案を持ちだしたのは上鳴だった。「たまには会ってぱーっと盛り上がろうぜ!」とかつてのクラスメイトを集め、仕事が終わり次第集合と同窓会の日付と居酒屋の地図がメッセージアプリで送られてきたのだ。突然の話ではあったがたまたま全員仕事以外で特に予定は入っていなかったため一人も欠けることなく集まれた。耳郎は頬杖をつきながら爆豪を見つめる。


「意外。爆豪は絶対来ないと思ってた」
「うっせえわ話しかけんな耳女」
「かー! 爆豪の口の悪さも懐かしいなー!」
「実際本当に久しぶりだよ。全員で集まったの何年ぶりだろうな」


上鳴がはしゃぎ始めると尾白が頷きながら言葉を返す。爆豪に話しかけるなと言われた耳郎はため息をついてからなまえへと顔を向けた。


「ね、何飲む? なまえって日本酒いけるの?」
「日本酒は飲めない……あ、カシスオレンジなら」
「かわいいかよ! オッケー、注文しとくな」
「ありがとう上鳴」


上鳴がタッチパネル式の注文できる機械を器用に操作すると数分もしないうちにビールとカシスオレンジが運ばれてきた。爆豪の分も頼んでくれたのだろう。なまえはビールの入っているジョッキを爆豪の前に置き笑いかけた。


「爆豪今日もありがとう」
「なまえ……お前飲みすぎんなよ」
「大丈夫。一杯だけにするから。ありが――」
「礼はいいからはよ飲んで食え」
「むぐ……おいひい」
「そうかよ……あ?」


わいわいと騒がしかった個室内がいつの間にか静まり返っている。なまえの口にから揚げを突っ込んだ爆豪はおっかなびっくりといった様子で肩を叩く切島に眉をひそめた。


「えっお前らそんな仲良かった?」
「普通だろ」
「いやいや俺の知る限りそんな仲睦まじくはなかったと思うんだけど!? 今日もって何!」


瀬呂が大声を上げながら机をバンバン叩いた。そこで芦戸が「そういえば二人ともここまで一緒に来てたよねー」と思い出したかのように口にする。全員の視線が刺さりなまえはから揚げを飲み込んだあとでちらりと爆豪を見た。それに気づいた爆豪が大きく舌打ちをしてくいっとなまえを親指で指差す。


「付き合ってんだよ。これでいいか」
「爆豪と待ち合わせてからここまで一緒にきたの……今日だけじゃなくていつも仕事遅くなると送っていってくれるんだ」
「んなことまで言わなくていいんだよ!」
「ごめん」


きっちり十秒の沈黙だった。全員が同じタイミングでえええ!? と驚きの声を上げ、爆豪がうるせえと負けないくらいの怒声を浴びせた。


「わあああっ交際っていつから!? あっおめでとう……っ!」
「ありがとう緑谷……一年前くらいだよ」
「長いっすごいすごーい! てかなまえちゃんこの間女子会したのにー! 何であのとき言ってくれなかったのー!」
「聞かれなかったから……」
「だってなまえちゃんに彼氏いるとは思わなかったんだもんっ! でもおめでとー!」
「……ありがとう葉隠」


なまえが微笑すると、耳郎が爆豪に「ふーん?」とにやにやとしながら口を開いた。


「なんだよ」
「いやぁ? 爆豪さん、なんて告白してなまえさんにオッケーもらったんですかー?」
「ああ!?」
「俺も気になるな」
「交際に至ったきっかけはあるのか」


ふざけている耳郎に続き真面目な表情で障子と常闇が会話に参加する。飯田も会話に交ざり元学級委員長として誠実な付き合いをしているか確認すべきだ! と鼻息を荒くしていた。まあ、そのあと苦笑した麗日に「もう大人なんだしどんなお付き合いしててもいいんじゃないかな」と言われてしまいしばらく落ち込んでしまっていたが。立ち上がった芦戸はなまえの近くに行くと後ろからねえねえと話しかけた。


「で? なまえ、告白したのは爆豪なの?」
「……う、うん」
「想像できませんわね……あの、無理やりではありませんか?」
「それは平気。私ちゃんと好きだか、ら……あー」
「なまえちゃん耳が真っ赤よ」
「お熱いねぇ」


人前で彼を好きだと気持ちを言うのには慣れていないらしくなまえは口元に手を当て俯いた。しかし髪から覗く赤い耳で恥ずかしがっていることはすぐにわかる。あははっと笑う芦戸になまえは弱々しくやめてと言うしかなかった。


「爆豪さんに笑いかけるなまえさんの顔がやけに嬉しそうでしたし、爆豪さんもなまえさんに対して少し優しさが滲み出ていましたし……」
「うん。納得はするよね」
「響香ちゃんたちと同意見よ」
「爆豪。末永くお幸せにな」
「肩組むんじゃねえっ」


上鳴に肩を組まれたが爆豪は払いのけてビールを半分飲み干す。そもそも同窓会なんて来る気はなかった。大勢で集まって飲むくらいなら家で一人飲んでたほうがいいし楽だ。それでもこうして足を運んだのはなまえが連絡に頬を緩ませてまた皆に会えるねと声を弾ませていたからだ。横目でなまえを見れば恥ずかしそうにしながらも目を細めて笑う楽しそうな姿がそこにはあった。この笑顔が見られたなら来る価値はあったと爆豪は思う。絶対に口には出さないが。


「ずばり好きになったきっかけをどうぞ!」
「アホ面動くんじゃねえぞ」
「あーっ落ちついて爆豪様!! 話せばわかる!!」


調子に乗った上鳴に"個性"で脅すというヒーローらしからぬことをしながら爆豪は早く終われと独り言ちた。このあとはなまえと二人きりでどこかで飲み直す予定を密かに立てているのだから。



羽ばたきの影を踏む



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