好きだ、と愛おしそうに見つめる伏黒の瞳が、大好きだ。

伏黒の部屋へ突撃訪問しようと言い出したのはどちらだっただろう。釘崎と共にせーので部屋へと押し入り、伏黒に怒られながらも三人で遊んだのは早速いい思い出だ。「あーさいっこうに楽しかったわ。んじゃ、私は寝るから!」遊ぶだけ遊んだかと思えば釘崎は右手をひらひら振りあっという間に部屋を出ていってしまったのだが。マイペースで何よりである。


「あーったく、部屋ぐちゃぐちゃじゃねえか……片づけ手伝えよ」
「いいじゃん楽しかったんだし。睨まないでって」
「………」
「わかった! 片づける! 今片づけるからっ」


渋々片づけをしながら、釘崎はこれを回避してさっさと帰ってしまったのだと今更気づいた。もう次の買い物では荷物持ちをしてやらないと心に決める。結局荷物持ちをしてしまう未来が見えたが、さておき。散々散らかしてしまった部屋を数十分かけてなんとか元通りにすることができたなまえは満足そうに息を吐く。どや顔付きで伏黒へと視線を向ければ、いかにもうぜえと言いたげな表情を向けられてしまった。解せぬ。


「それが仮にもカノジョに向ける女への顔?」
「散らかしたら片づけるなんて園児でもできる簡単なことだろ」
「恵お兄ちゃん、なまえがんばって片づけたからいっぱいほめてーっ」
「……はー」
「今ちょっと悪くないなって思わなかった?」
「ごみ袋そこ置いとけよ」
「ねえ思った? 伏黒?」


片づけを終え許可も取らず伏黒のベッドへ腰を落ち着ける。しばらくして同じように隣へ腰かけた伏黒の指が自身の指をするりと撫で思わず肩がびくりと跳ねた。


「え、っな、に」
「べつに」
「っ、べつにって言う奴の行動じゃない……」」


指から手の甲、腕、と長くて細い指がなまえの腕を這う。くすぐったくて、触れられた部分が痺れたように疼く。新手の呪術か。そうだと言ってくれ。


「ちょ、っと。もうやめてって」
「なまえ……」


ただ名前を呼ばれただけ。それだけなのに、好きが溢れて息ができなくなる。先ほどまで自分を邪険にしていた男と同一人物だとは信じられないけれど、自分と恋人である伏黒は目の前のたった一人しか存在しない。


「すきだ」


――私だって、伏黒のこと好き。

言わなくてもわかってるとでも言いたげな瞳がなまえを見つめ、ゆっくりと細まる。そう、この目だ。自分だけを映して、甘さだけを与えてくれるこの瞳が、なまえは大好きだった。


「ふしぐ、ろ」
「ん」


とうとう伏黒の指が頬まで上がり、壊れ物を扱うようにひと撫でされる。何度も脈打つ心臓の音を聞きながら、なまえは静かに目を閉じた。

ああ……ずっとこの時間が続けばいいのに。なまえも伏黒も、今は全てを忘れ幸福だけを感じていた。



あおく澄んだインフェリア



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