教室に入るなりなまえを一瞥した家入は、頬杖したままにやりと不敵に笑った。


「悟なら今いないよ」
「私は別に、何も言っていないけど」
「ふーん。あっそ」


頬杖していた手はいつの間にか短い髪を弄っている。そもそも三人しかいない教室なのだ。五条がいないことくらい開けた瞬間わかるのだけれど。


「なまえさ、めちゃくちゃわかりやすいよね」
「え」
「でもあいつはおすすめしない。趣味悪い」


席に座った瞬間憐れんだ瞳を向けられなまえは目を見開いた。わ、わかりやすい、とは。なまえはすぐに口元に笑みを浮かべ表情を誤魔化したが、内心冷や汗だらだらだった。あれ、これもしかして……ばれているのでは? なまえが一人焦っていると首元に回った腕にはっとして後ろを振り返る。そこにいたのはサングラスをつけ家入を見下ろす五条だ。


「はああ? 俺以上の男、この世に存在すんの?」
「うわ」
「……悟」


無表情のまま最悪と呟いた家入はタバコを片手にその場を去ってしまう。家入を見送った五条はパッと腕を離しながら「探した?」なんて首を傾げてきた。別に探してはいない。


「悟が任務なのは知ってたよ。それよりなんで硝子にばれてるの」
「なまえがわかりやすいからって言ってたじゃん」
「……私のどこがわかりやすいの?」
「んーそういうとこ」
「どういうとこ」


椅子を近づけなまえの隣に移動した五条はにこにこ……否、ニヤニヤしながら指を絡めてくる。絡めた後指で手の甲をするりと撫でるものだから堪ったものではない。


「悟、くすぐったいよ」
「いいじゃん。減るもんじゃないし」
「そう、だけど」


すり……と撫でてくる指はくすぐったさだけでなく、羞恥も同時に襲ってくるのだ。目の下が赤くなっていることに気づいているくせにやめてくれないところは、本当に五条らしい。


「なんにせよ、多分俺らが付き合ってるのそのうちばれてたよ。特に硝子は察しいいから」
「私も知っているよ、それくらい。……別にいいよ。隠し通せるわけないって薄々わかってたことだからね」


満足そうに微笑んだ五条が握っていた手を口元に近づけ、指に口づけた。五条の愛情表現は毎度のことながら反応に困る。わざとらしくため息をついてみるが、きっと恥ずかしがっていることなんてお見通しなのだろう。自分はわかりやすいらしいので。


「なまえ愛してるよー」
「……軽い愛だなぁ」
「口調はね。重さで言ったら相当だと思うけど」


何を言っているのだ、この男は。自分だって重い愛を向けている。ではければ付き合わないし、こんな愛情表現を受け入れない。……口では絶対言ってやらないけれど。


暗闇を潜る導火線



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