「付き合わねえか、俺と」
「うん、いいよ! 買い物?」
「秒かよ。まあデートしてえなら止めねえけど」
「ん?」
「?」


ちぐはぐな会話と自分のバカさ加減を思い出すと今でも恥ずかしい。少し考えれば男女のお付き合いをしましょうってことくらいわかるだろうに。そんなこんなで伏黒と交際を始めたなまえは、現在進行形で焦っていた。とてつもなく。未だかつてないくらいに、だ。


「タンマタンマ! まじで! 何しようとしてくれちゃってんの!?」
「この状況でそれ聞くか? キスに決まってるだろ」
「私が悪いみたいな言いかたやめてくれない……?」


伏黒の部屋に誘われたのはお昼ごろだ。正直に部屋デートと言われたときは動揺してしまったが、そろそろ積極的すぎる伏黒にも慣れなければ心臓が持たない。比喩ではなく一度死んでいるなまえにとって、心臓は大切にしなければならないのだ。


「誘われてほいほいついてくるなまえも悪い。いいから目閉じろ」
「うう、はじめてなのに……強引すぎる」
「はじめて、か……うれしい」
「ここでかわいさ出してこないでよ! 流される!」
「流されろよ」


舌打ちしたのを聞き逃さなかったなまえはぐぬぬと顔を歪める。ほいほいついてくる自分が悪いと言われたって、伏黒に誘われたなら理由がなんであれついていくに決まっている。友だちだし、彼のことも大切だし、何より恋人だし。ごにょごにょとそんなことを口走れば、迫っていた伏黒の動きがぴたりと止み、突然顔を覆いだした。


「どったの……」
「信用されすぎてて羞恥が来た」
「えええ……そりゃするでしょ。私、伏黒が思ってる以上に伏黒のこと好きだよ」
「……告白したの俺からだし、正直好きの感情は俺のほうがでかいと思ってた」


言いづらそうに呟く伏黒がかわいらしくて、微笑んだなまえが片手でよしよしと髪を撫でる。どさくさに紛れて抱きしめてきたが、かわいさが勝ったので許した。


「大丈夫。好きだよ、伏黒」


はにかんだ顔を見られずに済んだのは抱きしめてもらっているおかげだ。ぎゅう、とほんの少し強くなった抱擁にくすくす笑う。


「そんなに不安だったの?」
「……結構。こうやって迫るとお前逃げるし」
「う……そ、それは、恥ずかしいからで……別に嫌なわけでは」
「あっそ」


――言質、取ったからな。

耳元で囁かれた瞬間視界に映るのは天井と伏黒。きょとんとしているであろうなまえを見つめる伏黒の口角がよく見れば上がっていて、震えあがった後で叫んでやった。


「かわいくない! やっぱり伏黒かわいくない!」
「なまえに大好き言われるまではへこんでたんだからかわいいほうだろ」
「助けて釘崎……」
「二人きりのときに他の奴の名前出すなよ……」
「嫉妬はかわいい……」
「……もう目閉じなくてもするからな」


顔を近づけてきた伏黒に、心の準備とせめて目は閉じさせてくれというお願いを聞いてもらえるかどうか。叫び声と笑い声を交えて、夜が更けていく。


はかない言葉で手綱を引きたい



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