*歴代継承者同士の会話のみ


「んで? どう思うよ」
「何がだ」


椅子が並べられた空間。ワン・フォー・オール五代目――万縄の神妙な面持ちに、四代目である四ノ森は何事かと顔を向ける。腕を組みながら唸っていた万縄は当然だとでも言いたげに膝をバン! と叩いた。


「なまえに決まってるさ!」
「ワン・フォー・オールのことなら、急いても仕方ない。次に彼女がここに来るのを待とう」
「ちげぇさ。俺が言いたいのは、もっと別のことで」


万縄の言葉にふっと笑ったのは七代目の志村だ。どうやら彼女は彼の言いたいことがわかったらしい。


「あまり首を突っ込むものじゃないですよ」
「んーだけどなぁ」
「自分もそう思います」
「煙まで言うのか」


六代目の煙が頷きながら返事をする。初代である与一も彼らの反応に全てを察したのかにこやかに微笑む。話に参加していない二人の継承者は別として、どうやらそれ以外で話がわかっていないのは四ノ森だけらしい。


「一体なんの話をしてるんだ」
「四ノ森くん。多分彼女と幼なじみである彼のことを言っているんじゃないかと思う」


中々教えない万縄に代わって助け舟を出したのは与一だ。そこでようやくワン・フォー・オールの話ではなく、恋愛事の話だったことに気づき目を丸くする。


「プライベートなことは詮索するものではないと思うが……」
「もどかしいったらありゃしねーさ! あんなでかい感情抱いてたら、詮索するまでもなくみんなに伝わるってもんさ」
「それは、たしかに……」


万縄の言う通り、なまえのプライベートそのものは守られているものの、強い想いまでは守られることなく彼らに筒抜けであった。なまえが爆豪を好きだという……大切な想いが。


「俺は両片思いの線を押す」
「人の恋路はどうでもいいが」
「っはー。四ノ森さんほんと頭が固い」
「変人に何を言われてもな」
「………」


ぴしりと固まった万縄がそのまま四ノ森に攻撃を繰り出す。しかし四ノ森は動じることなくそれを避け、また攻撃されを繰り返した。いつものじゃれ合いということで放っておくことにした志村たちは椅子に座ったまま穏やかな空気の中話す。


「あの子は、幼なじみのことが心の底から好きなんでしょうね。伝わってくる好きの想いがとても温かい」
「うん……そうだね」


微笑したまま告げる志村の声に深く頷いたのは与一である。年頃の彼女はこれからも過酷な戦いが待っているだろう。それでも、抱いている気持ちは排除すべきものでもなんでもないから。


「この気持ちだけは、消さずにずっと大切にしていてほしいな」
「ええ、本当に――」


志村の返事に呼応するようにオールマイトの意識がゆらりと揺れる。どうやら彼も同じ気持ちのようだ。


「見守っていこう。あの子のこれからを。そして、決着をつけよう。兄さんと」
「頑張りましょう」
「……はい」


煙、志村はこくりと首を縦に動かし、さてとと席を立つ。さすがに長いので、じゃれ合いを止めにいこうではないか。口で言っても止めないのならば、物理で黙らせるしかない。なまえの想いが成就することを願い、志村たちは一歩踏み出した。


花冷えの褥



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