*謎時空


「よく来たね。私のかわいい剣士こどもたち」


顔の上半分まで広がってきた爛れたような痕は痛々しい。それでも語りかける声はどこまでも優しく、心地良かった。柱と呼ばれた者たちは一斉に片膝をつけると頭を下げる。


「今日はよく晴れているみたいだね。みんなと顔を合わせることができて嬉しいな」
「お館様も本日はご壮健のようで何よりです」
「うん、ありがとう天元。最近は一人で立ち居が上手くできてね。こうして話もできる……できることはできるときにしておこうと思うんだ」


微笑んだなまえに宇髄だけでなくしのぶたちも憂う表情を隠せずにいた。この先自分が立つだけでなく座ることもままならなくなることを理解しているのだ。理解しているからこその言葉。


「さあ、入って。柱合会議を始めよう」


こうして会議は滞りなく進められ、終わりを迎えることができた。貴重な意見も出て、今後の鬼殺隊について深く話し合うことができたと思う。そう――会議だけは、何事もなく終わったのだ。







「やはり、なまえ様の伴侶に相応しいのは俺だと思うのだが、どうだろうか!」
「どうもこうも相応しくありませんよ煉獄さん。お願いですから勝手な言動は慎んでくださいね」
「俺はお前を信用しているし信頼もしているが、伴侶は認めるわけにはいかない」
「ううう、みんな落ち着いてよー!」


はきはきとしゃべる煉獄の言葉を秒で否定したのはしのぶと伊黒だった。甘露寺は半分涙目の状態でなんとか三人を落ち着かせようとするがあまり意味がないようである。


「おいやめろォ。お館様の御前だ」
「嘆かわしい……」
「ふふふ。いいよ、実弥。行冥も。たまには私も人と雑談をしたいしね」


会議が終わってすぐになまえの伴侶の話をし始めたため、彼女がこの場にいるのは当然だ。なんとしてでもこの無駄な会話を打ち切りたい不死川と悲鳴嶼だったが、なまえに大丈夫と言われてはこれ以上口出しなどできるわけない。


「でも、そうだね……私の呪いも進行が進んでいる。そろそろ子を授からなければいけないな」
「俺はどうでしょうか!」
「本当黙っててくれませんか?」
「あ、あのぉ……でもでも、なまえ様って神職の一族と代々ご結婚されてるんですよね。じゃあ、諦めたほうが――」
「うむ! ならば仕方がないな! 諦めることにしようッ!」
「声でけえよ」


いくら宇髄に冷たい目で見られようが豪快に笑う煉獄はいつも通りである。微笑を浮かべ話を聞いていたなまえはすっと視線を冨岡と時透へ移した。


「二人は立候補してくれないの?」
「僕はなまえ様の幸せを一番に考えてくださる人とならば、誰と結婚しても構いません」
「……恐れ多いので」
「そうなんだね。ふふ、残念」


甘露寺はなまえでもお茶目なことを言うんだなときゅんとする。その一方で早く話を切り上げたいのか青筋を立てている不死川がいつ怒りを爆発させないかひやひやした。だってなまえがいるところで煉獄以上の大声を出したら、彼女がびっくりしてしまうかもしれないので。


「話せて本当に嬉しいし、楽しいよ。もっとみんなの声を聞かせてほしいな」


話すのが苦手な冨岡も、なまえが声を聞かせてほしいと言うのならば出そうと思う。庭では彼らの鎹鴉が集まり暇を潰していた。


主は山羊をも憐れむか



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