今まで微笑程度だったなまえは、鬼殺隊が解体され歯を見せて笑うようになった。鬼との戦いは壮絶で、生き残った柱はなまえと不死川のみ。亡き仲間たちの想いを胸に、笑顔で明日に向かってまた歩き出した。少なくとも不死川はそう信じていたし、だからこそ今のこの状況が嘘だと思いたかったのかもしれない。


「な……に、してんだァなまえ!!」


なまえと不死川は鬼殺隊解体後まるで当然のことのように結ばれた。祝言だって挙げたし、愛の言葉だって囁きあった。空の上の人たちも祝福してくれてるはずだ、なんて笑いあったというのに。

なぜ、なぜだ。どうして自分で自分の首を絞めている――!?


「っ、う、げほっ、ッう」
「なまえ、おい……っ、なまえ……!」


苦しそうに咳き込むなまえの背を撫でながら歯を食いしばる。なまえの首には指の形である赤い痕がいくつか残っていて、首を絞めたのが一度きりでないことは一目瞭然だ。


「何があった……っ?」
「あ、さねみ……さね、み……」


なまえの瞳に不死川が映り、彼の姿を認識した瞬間涙を流す。泣きたいのはこちらも同じであるというのに。


「私が幸せになるたび……夢に出てくるの……」
「……は?」


しばらくして落ち着いてきたなまえの口から発せられたのは夢の話だった。


「どうして私だけって、みんなが私を責めて……幸せになるなって笑うの」
「なにを」


言ってるんだ。続けようとした言葉は空気となって消えていく。自分と同じく、乗り越えたものだと思っていた。仲間の死を乗り越え、前にだけ進み続けているものだと。

だが、なまえという女は――そんなに強くなかった。


「なまえ、それはただの夢だァ……忘れちまえ」
「っでも……」
「あいつらがンなこと言うわけねェだろ……?」
「……わかってる……わかってるの……」


不死川はただただ抱きしめることしかできない自分が憎らしかった。勝手に勘違いをして傷ついていることに気づかなかったなんて。夢の中には介入できやしないし、どうしたらなまえが元気になるかなんてわかるはずもなかった。


「何もできなくて、ごめんなァ……大丈夫だなまえ。お前は幸せになっていい。幸せにならなきゃいけねェ」
「……そう、だよね……うん……そう」


縋るようになまえも不死川の背中へ腕を回す。


「はなさないで」


なまえの声が鼓膜を震わせ、不死川は何度も頷きながら彼女をかき抱く。俺を置いて逝くなという言葉は、なまえの耳に届くことなく口の中を彷徨った。


空虚はあなたのかたち



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